私たちの理想とする美しい顔とプロポーション、なのに生きているかのようでどこか不気味―今回は、街の風景の中に無数に存在しながら、ほとんど取り上げられることのなかったマネキンを、初めてクローズアップします。
マネキンの原型は、18世紀ころから隆盛を極めた身長30センチほどのモード人形にさかのぼります。 蝋人形の制作技術が加わって等身大になり、百貨店や消費社会の出現により店頭やショーウィンドウを飾るようになりました。 マネキンがパリから日本に輸入されたのは大正5年ころ。 航海で損傷した蝋製マネキンを修復し、やがて大正14年に国産第1号がつくられて日本のマネキン (洋マネキン)の歴史がはじまります。

キュビズムの大胆なフォルム、アール・デコの様式美、人気女優の似姿、理想の肉体美の追及、直接型取りした人体の再現を経て、いまマネキンは抽象化、オブジェ化し、からだや顔は輪郭を失いつつあります。こうした変遷は、ファッションが映し出してきた時代の変化、商業空間や都市空間の変容、人体に対するイメージの変貌を如実に表しているといえるでしょう。

ところで、なぜ彼女たちは笑わないのでしょうか。今回の企画を生んだこの素朴な疑問への答えはまだ見つかりません。人形と人体のイメージをひきずりながら都市を浮遊し、流転する彼女たちの不思議な魅力を、皆さまにも感じていただければ幸いです。

今回の展示およびブックレットの作成に当たっては、株式会社七彩をはじめ多くの方々にご協力をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

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