gallery2

2002年7月のINAXギャラリ−2 Art&News
Shin Sung-Hy (シン・スンヒ)
― 裂き、結ぶKAIGA ―

会期 : 2002年7月1日(月)〜29日(月)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



切り裂き、結び直したKAIGA

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

ソウルの画廊でシン・スンヒの作品の前に立ったとき、「りぼん絵画」ということばがこぼれおちてきた。さまざまな作品にであった瞬間、符丁のようなことばがこぼれおちてくるときが、私が作品に出会ったときだ。しかし十数点を見終わって、精緻に結ばれてあるかたちの多様さに圧倒されながら、たぶん作家の生成期の荒々しいムーブメントには遭遇できなかったのだという、残念な感情がわいてきた。宝石店で、何もかも見事すぎて、急に縁がないと思った気持ちに似ていた。
東京に戻り彼の画集を開いてみて、思いが変化した。

シン・スンヒのしごとはキャンバスという平らかなところに、ことを起こそうとしてきた軌跡だった。キャンバスと葛藤し続けてきた闘病記録かもしれないと思った。 シン・スンヒはあらん限りの試みで、キャンバスに違う地平を出現させたいともがき続けてきた。 キャンバスの一部を切り裂いて、その布で、そこを結ぶ。その画布以外のりぼんも加わって繋がり、また途切れる。 りぼんの密集した森、あるいは蝶が黒々と固まっているように、画布がうごめいてくる。
はじめてキャンバスを切り裂いたとき、彼は寄って立っていた地平を拒否したはずだ。 しかし結ぶという行為は、関係の修復だ。切り裂いて、結んでいくというアンビバレントな行為には、シン・スンヒの悲喜劇が全部つまっている。
1949年に発表されたルチオ・フォンタナの「切り裂き絵画」の衝撃は、多くの画家たちにとって、それぞれの金字塔を築こうとしたら、大地そのものが陥没してなくなってしまったようなできごとだったに違いない。 シン・スンヒはフォンタナよりかなり若い年代だが、彼もキャンバスの裂け目から落ちたところから歩んできた。 シン・スンヒにはジャクソン・ポロックやサム・フランシスへのオマージュとおぼしき色彩の結び目や、ストライプの溝をもつ作品もある。
しかしシン・スンヒの作品は、さまざまな光と影を隠し持ち、深い穴や溝の暗闇を覗いてきた。

4月初旬、私はソウルのシン・スンヒのアトリエに到着した。 展覧会を決めていらい、まだ作家に会っていない。東京ではじめての個展で、INAXギャラリーのこともほとんど知らない。 ぼんやりとした心配を抱えていた。挨拶もそこそこに、今展に予定された作品が並んだ部屋に招かれた。 入ってまもなく、私は彼にとってきっと大作だったはずの作品ばかりをさして「そうじゃない」「違う」と口走っていた。自分でもとめようがなかった。 淡いあこがれの初恋の人とはじめて口をきいて、若いときの颯爽とした面影が消えたと、とがめるような大人気ない振る舞いだったかもしれない。 深い思いの緊迫のときが過ぎ、場所を変え杯を傾けた。 韓国語とフランス語をまじえたシンさんから、日本語と十数個の英単語だけしか口走れない私は、「私は絵画を変えたいと長い間制作してきたのに、少し忘れかけていた」ということばを聞いた。と思う。同席の二人もボディランゲージ同士なので証人にはならないが、「シンさんはこんにちまで何かを切り裂き、結び直してきた。 だからもっと荒々しく大胆に、きれいじゃなくやってほしい」という大意で私は会話した。 はずだ。 だから何かを切り裂き、結び直した「KAIGA」がやってくる。はずだ。




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