会期 : 2002年7月1日(月)〜29日(月)
休廊日 : 日祝日
Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。
切り裂き、結び直したKAIGA 入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)
ソウルの画廊でシン・スンヒの作品の前に立ったとき、「りぼん絵画」ということばがこぼれおちてきた。さまざまな作品にであった瞬間、符丁のようなことばがこぼれおちてくるときが、私が作品に出会ったときだ。しかし十数点を見終わって、精緻に結ばれてあるかたちの多様さに圧倒されながら、たぶん作家の生成期の荒々しいムーブメントには遭遇できなかったのだという、残念な感情がわいてきた。宝石店で、何もかも見事すぎて、急に縁がないと思った気持ちに似ていた。
シン・スンヒのしごとはキャンバスという平らかなところに、ことを起こそうとしてきた軌跡だった。キャンバスと葛藤し続けてきた闘病記録かもしれないと思った。
シン・スンヒはあらん限りの試みで、キャンバスに違う地平を出現させたいともがき続けてきた。
キャンバスの一部を切り裂いて、その布で、そこを結ぶ。その画布以外のりぼんも加わって繋がり、また途切れる。
りぼんの密集した森、あるいは蝶が黒々と固まっているように、画布がうごめいてくる。
4月初旬、私はソウルのシン・スンヒのアトリエに到着した。 展覧会を決めていらい、まだ作家に会っていない。東京ではじめての個展で、INAXギャラリーのこともほとんど知らない。 ぼんやりとした心配を抱えていた。挨拶もそこそこに、今展に予定された作品が並んだ部屋に招かれた。 入ってまもなく、私は彼にとってきっと大作だったはずの作品ばかりをさして「そうじゃない」「違う」と口走っていた。自分でもとめようがなかった。 淡いあこがれの初恋の人とはじめて口をきいて、若いときの颯爽とした面影が消えたと、とがめるような大人気ない振る舞いだったかもしれない。 深い思いの緊迫のときが過ぎ、場所を変え杯を傾けた。 韓国語とフランス語をまじえたシンさんから、日本語と十数個の英単語だけしか口走れない私は、「私は絵画を変えたいと長い間制作してきたのに、少し忘れかけていた」ということばを聞いた。と思う。同席の二人もボディランゲージ同士なので証人にはならないが、「シンさんはこんにちまで何かを切り裂き、結び直してきた。 だからもっと荒々しく大胆に、きれいじゃなくやってほしい」という大意で私は会話した。 はずだ。 だから何かを切り裂き、結び直した「KAIGA」がやってくる。はずだ。 |
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