gallery2

2003年6のINAXギャラリ−2 Art&News
菱刈俊作 展
― のっぺらぼう写真館 ―

会期 : 2003年6月2日(月)〜26日(木)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



のっぺらぼう写真館

入澤ユカ (INAXギャラリーチーフディレクター)

菱刈俊作のコラージュは古風に見えた。多くのファイルの中にあって、彼の作品は古臭いとも感じた。しかし急かされるように展覧会を決めたのは、古いこととは変わらないことであり、今日のことでもあるのだと気がついたからだ。 今朝の新聞からでもいい、誰かの正面を向いた肖像や記念写真とおぼしきものを切り取って、コラージュしてみればわかる。そのとき誰の顔をものっぺらぼうにしてみる。そうするとそれらはたちまち私の家族になり、同僚になり、同級生になる。顔のない人物の写真コラージュからショックのような痛みを受けた。
今日もまた、私は無数の人間に会う。街の中や新聞雑誌広告チラシ看板テレビ映画携帯画像の中で。朝のテレビのニュースはバクダッドの市民や米大統領演説のまわりの人々を映し出している。何十人もいた。通勤開始、玄関を出てバス停に向かうとき1 人、バス停で3人、バスの中では10数人、地下鉄駅の交差点には20人はいた。地下鉄の往復、昼休みの食事帰りで数百人。だが正面を向いた、静止している姿の人物とは会ったことがない。静止した人物は印刷というものなどになって、新聞や雑誌や中吊り広告からやってくる。網点というものになってあらわれる。静止しているから、正視してしまう。

会場写真

菱刈俊作の肖像コラージュは張り合わせた紙片に、モノクロームの絵の具を用いることで、その人物の生きた時代の匂いも消している。全部を遺物のようにしてしまう。最も特徴的なことは人物から目鼻を消し、表情を無くしたことだ。のっぺらぼうのまっしろけに、私の固有が乗り移る。のっぺらぼうは通俗で、陳腐で、グロテスクだから豊饒で、懐かしさと愛おしさと恐怖や悲しみまで連れてくる。顔があると、知ったものへとつなげてしまうが、のっぺらぼうには幾千もの昼夜がどっとやってくる。のっぺらぼうに、見たいものが溢れる。

会場写真

世界中に肖像画はある。王族、貴族、聖人、武将、富豪を偉人たらしめたい誰かによって描かれてきた。そしてそれらのほとんどが正面を向いている。だから写真が発明されたとき、みんな王侯貴族や聖人のように、真正面を向いてみた。世界中総真正面のはじまりだ。 かつてこの国の庶民は絵巻というものに描かれたが、庶民とは何か動作をしている者を指すようだ。田の草をとり、腰をかがめ天秤棒を担ぎ、犬を追い独楽をまわし、飲食どころの床机に座っていたりする。絵巻の庶民は、今日では日々のテレビ画面の中にいて、決して真正面を向いていないものだ。真正面に向くのは、ないものをあるように見せたい最初のかたちなのだろう。家族の一瞬、学級の一瞬、社員の一瞬をカッと目を見開いてとどめようとする。動かない姿とは非日常なので、だから記念写真という。 記念写真がのっぺらぼうなんて見たくない、見てしまう、いろんなものが見えてきた。




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