gallery2

伊達伸明 展
-建築物ウクレレ化保存計画-

会期 : 2005年11月1日(火)〜11月28日(月)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

「ウクレレ」と「ナミイタ」


「建築物ウクレレ化保存計画」という文字の連なりに反応した。どうやら壊されることが決まった建築物の一部で小ぶりな楽器、ウクレレをつくってしまう作家がいるらしい。それからしばらくして、「新世界ウクレレ遊覧 案内人・伊達伸明」の募集を目にした。大阪の通天閣をシンボルとする新世界と呼ばれる界隈を作家とともに数時間めぐるらしい。即座に申し込んで参加した。

作家の名は伊達伸明、取り壊された建物の一部でウクレレを作って、できたウクレレを家の持ち主に贈呈してしまうという行為を続けている。そのことを知った時、美術という営為の深まりを思った。
王族や貴族という発注者がいて絵画や彫刻や建築が残されてきた歴史の果て、西暦2000年頃に、庶民の住まいや商店などの建築物をウクレレに残すという美術家が出現した。
伊達はまた、建材の最も安価な波板状のトタンやプラスチックの表情も採集している。町の至るところ、少しぞんざいな小屋や家の部位に用いられる波板という素材を撮影する。写真作品として切り取られた「ナミイタ」は、とびきりの天然抽象美という顔を持っていた。見立ての眼の深さ、慈眼とも呼びたいまなざしがあらわした「ウクレレ」と「ナミイタ」という二本立ての興行主は、なんて洒落者なのだと感嘆した。赤瀬川原平や藤森照信らによって打ち立てられた「路上観察学」や「建築探偵団」のココロとココロザシをかすかに浴びているかもしれないのだが、美術家とは、なんと深くおもしろいことをあみだす者なのかと唸った。
「建築物ウクレレ化保存計画」のきっかけは、彼の祖父の築100年の家の取り壊しがきっかけだった。500枚近い写真を撮っているうちに、幼少時に触った電気のスイッチや扉の取っ手、トイレに座ったときに見える正面の壁の肌触りやディテールが強烈に思い出されたという。
「住人にとって建築とは、長年の肌感覚が積み重なって転写されたスクリーンのようなものなのかもしれない」という作家自身のことばの前に、私が付け加える賢しらげなことばは不要だ。
ただひとつ、羨望に身悶えしている。もっと早く伊達伸明が生まれていて、出会えていたらと。祖父から引き継いだ「第一米穀販売所」という墨痕の看板が掲げられた大きなバラック建ての米倉庫に、入れ子につくられた米屋の事務所兼住まいだった、私の「ウクレレ」が欲しかった。
東京江東区の「食糧ビルウクレレ」、港区「愛星保育園ウクレレ」など東京のウクレレも並ぶが、大阪新世界や法善寺横町のウクレレはなんやら面構えが違う。もちろん全部、持ち主から借りてきたものだ。
今展は、できたらすぐ作家の手元から飛び立っていく「ウクレレたち」が、まるで年を重ねた朗らかな法事の席に集うように居並んで、懐かしく切なくざわめく。

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

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