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第8回「INAXギャラリー10daysセレクション展」にあたって

会期 :2006年8月1日(火)〜8月11日(金) 成清美朝展
   2005年 8月19日(土)〜8月29日(火)碓井ゆい展
休廊日 : 日祝日


毎年8月開催の「10daysセレクション展」は今回で8回目を迎える。開催主旨は、毎月開催している1ヶ月単位の会期では表現しにくい作品の展覧で、これまでは映像やインスタレーションなど機材や素材に時間制限のある作品が多数応募されてきた。ところが今年は初めてそうした作品の応募が少なく、1ヶ月単位の展覧が可能な作品が多かった。その理由として、このような公募形式の発表の可能性が増えたことにも起因しているのかも知れない。そこで今年は、平面作品が活気づいてきた潮流を感じたことと、インスタレーション表現での、ますます「わたしの部屋化」してきたことを象徴する、二人の作家を選んだ。

成清美朝は泰西名画をモノトーンのパステルで模写したように描く。ただし、パステルで描くのは線や点でなく昆虫の蟻である。大きさ5@の何十万という蟻の大群が、ボッティチェルリのビーナス誕生や、ミケランジェロの聖家族や、スルバランの卓上静物画をかたちづくっている。端正で華麗な模写だと思って近づくと、たちまち夥しい蟻の群れに気づく。びっちりと隙間なく蠢くものへの全身が泡立つような感覚に、瞬時に名画への想いは雲散する。もじりとも本歌とりとも策略とも考える前に、思わず笑ってしまい、名画はぐっと身近になる。さまざまな線描が蟻の這った跡だったという小粋なユーモア。作家自身が蟻となってなぞっていく根気と情熱、おおらかなエネルギーがある。
新作では鎌倉時代の「九相詩絵巻」の1点をモチーフに選んで蟻で描く。死んで肉体が滅び、土に返って行く様を九場面に分けて描いたこの図は、犬や鳥に齧られる残酷さ、腐敗ガスで膨らみ、白骨化する惨たらしさが描かれ、古今東西人気がある。蟻で描かれた成清の九相詩には、テーマの死と蠢く蟻への嫌悪感との二重の重苦しさがある。だが実際には、すべて蟻の退場によって砂を払うように消えていってしまうことが無常とすがすがしさを感じさせる作品である。

碓井ゆいは布やコイル、身の回りのモノの物質感を独特に際立たせた作品を、空間に点在させるインスタレーションを行なう。クリスマスをテーマにした「パーティのあと」、京都芸大の古い校舎を利用した作品など、大量消費時代、誰もが無数に捨ててきたチョコレートの包み紙や、セーターの模様など、記憶のかけらで記憶の部屋を作り直したような作品である。ゆっくりとその中で見ていると、無数の人々にもきっとある懐かしいような親密さが立ち現われてくる。棚にそっと置いた布切れですら、思い出に満ちているような、簡単には手を触れることのできない濃密な存在感を放つ。碓井の布や缶には大切に、大切に扱われて灯りがともったような不思議な質感がある。
今展は「小学校の音楽教室」がテーマである。ヘンデル、ベートーベン、シューベルトなど楽聖の肖像画、五線譜の書かれた黒板、音響のためのポツポツと穴の開いた壁、黒いグランドピアノ。音の合わないのどかな楽曲が聞こえてくる向うに、高い空が広がっているような白昼夢が見られる。


INAX文化推進部 大橋恵美


INAXギャラリー2 2006年の展覧会


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