
手に入れた念願のマイホーム。その美しい外壁は、ずっときれいに保っていたいものです。でも、雨やホコリでどうしても汚れてしまう。掃除をするのも大変です。もし外壁自身が自動的に掃除してくれる技術があったら・・・。そんな夢のような技術を実現するためのヒントが、なんとカタツムリにありました。

その日は、しとしと雨が降っていました。スタッフのひとりが研究室の窓からカタツムリを発見し、「汚れた殻のカタツムリって見たことがない。カタツムリはきれい好きなのかな・・・」とつぶやきました。言われてみると、カタツムリはいつもジメジメした場所にいるのに、殻の表面はなぜかいつもきれい。カタツムリ自身が何らかの方法で殻を掃除しているのでしょうか?
でも掃除しているカタツムリなんて、見たことがない。それならば、殻自体に汚れを寄せ付けない仕組みがあるのでしょうか? ひょっとしたら、そこに外壁をきれいに保つためのヒントがあるかもしれない。私たちは、この謎を解明することにしました。
カタツムリは巻貝の仲間で、約6億年前に祖先が誕生しました。その殻は、大理石と同じ成分のアラゴナイトとタンパク質の複合材です。タンパク質は汚れの原因になりやすい油と相性が良いため、汚れやすい物質だといえます。ではなぜ、表面層がタンパク質でできているカタツムリのには、汚れがつかないのでしょう?
そこで、実際にカタツムリの殻に油が付着するかどうか実験。殻に油滴をたらしてみると、見事にはじかれてしまったのです。
カタツムリの殻の主成分は炭酸カルシウム。炭酸カルシウム鉱物である方解石と、カタツムリの殻の汚れやすさを比較実験したところ、方解石には油が付着するが、カタツムリの殻には付着しないことが判明しました。
殻の表面構造の解析を進めていくと、数百ナノ(1ナノ=10億分の1m)からミリサイズまでの広範囲な階層で“溝”がつくられていることが判明。とてつもなく細かい溝が殻表面に広がり、常にその溝に水がたまる仕組みになっていました。そこに油をたらすと、水と油は反発し合う性質なので弾く。そこに上から水をかけると、浮いている油はその水と一緒に流れ落ちる。だからカタツムリの殻は、雨が降れば汚れが簡単に落ちていたのです。

「汚れるのが当たり前」と思われている外壁材の常識をくつがえすために私たちは、雨が降れば汚れが自動的に落ちるカタツムリの防汚メカニズムを、外壁材に応用する研究を始めたのです。それは、空気中の水分を吸着して、ナノレベルの薄い水分子膜を形成させることでした。
実際に人が触れて「濡れている」と感じるようでは、日常の使用には適さない。そこで、さまざまな可能性にトライ。発見したのが、シリカ成分を外壁材の表面に塗るという方法でした。
シリカ成分とは空気中の水分と強く結びついてそれを保持できる成分で、カタツムリでいう“溝の部分に水をためる仕組み”の代用になったのです。試作品をつくっては、実際に汚れ物質を付着させ、雨が降ったと想定して散水する。そんな実験を何度も繰り返しました。
着想から数年後、やっと完成させることができた防汚技術が、INAXの「ナノ親水」。
雨が降ることで汚れが自動的に落ち、きれいをずっと保てる外壁がこうしてカタチになったのです。

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