1987年5月は、京都在住の狗巻賢二 (いるまきけんじ) さんの、紙に水彩による「いろどる」をご覧いただきました。 大阪では14年ぶりの発表となる今回出品された作品は、アルシュ紙に水彩のドローイング。水彩特有の透明感あふれる色彩が画面に縦横に走ります。

昨年 (1986年) に東京で発表された作品もまた、淡い単調による格子縞がテーマでしたが、見慣れた、実に単純なモチーフが繰り返し描かれていました。
そしてもう少し以前は、真白いキャンパスに真白い絵の具によるもので、その表情はかすかな筆のタッチと、絵の具の盛り上がり部分が陰影をつくるだけといった、まるで作品が何かを主張することを極力避けているような作品でした。

今回のサブタイトルを平仮名の「いろどる」と決めたのも、彩ることが、色取ること、つ まりは、どこまでも筆致や色彩が、紙という物質の中で無名性を保ちうるかという表現を、 狗巻さんは目指しているように思えるからです。

狗巻さんの言葉を借りれば、無意識に意識的であるこれらの作品は、淡くはかなげに見え ながら、その実、まるで色彩が紙に定着されてゆく緊張した時の流れが感じられるかのよ うな、強い印象で、観る者の眼に、じんわりと染み込んできます。

INAXギャラリー大阪