今までほとんど専門家の調査や研究の網の目に掬い上げられることのなかった明治・大正・昭和初期にかけて建てられた近代建築をご紹介します。 題して「わが町のモダン建築展」。

監修は日本大学教授・山口廣氏です。山口先生は、写真家・宮本和義氏とともに、ここ5年間全国各地にいまに残るこうした建物を訪ね歩く仕事をつづけてこられました。 その成果は、月刊誌「建築知識」に『近代建築再現』として現在も好評連載中です (※1987年開催当時)。
このたび同誌のご協力を得て、これら、多くは土地の無名建築家や大工・棟梁の手によって生み落とされた全国に点在する建物を、写真パネルを中心にご覧いただくことになりました。写真はもちろん宮本和義氏によるものです。

さまざまな伝承や物語をコケのようにまとい、その土地に住む人びとの記憶にいつしか分かちがたく織りこまれている建物の数々。 そこからは、在来の土壌の中で「洋化」とまみえて苦闘した痕跡、あるいは外来のデザインや技法をいともやすやすと籠絡した堂々たる手腕、「有名建築」には見られない自在で闊達な造形をうかがい知ることができます。

展示にあたっては、昭和初期の自邸を当時に近い姿で守りつづけてこられた徳島の三河節氏により多大なご協力をいただきました。

この展示によって、このような古い建物をこんにちまで生き延びさせてきた関係者の深く誇らかな愛情を感じとっていただければ、そして誰もが胸の中に懐かしさを禁じえない、それぞれの "わが町"にある失われつつある建築に思いを馳せていただければ幸いです。

INAXギャラリー