家の外でありながら、全くの外とは言い切れない、天井のない部屋のような、あるいは外にしつらえた床の間のような "坪庭" は建築と一体になった庭。 単なる採光や換気のためだけではなく、狭い都市の住宅の中で自然と共存するために生み出された、日本人の実にすぐれた知恵の産物といえます。

坪庭づくりに特別な約束ごとがあるわけではありません。 さりげない中に計算しつくされた絶妙さ。樹木や石、燈籠や手水鉢、敷砂の配置は、いわゆる庭園や茶庭の流れをくんだ造形ながら、そこに住まう人が、自分だけの小さな宇宙を形づくる格好の舞台となり得ます。 大きな自然を、小さな空間の中に、雪・月・花という象徴に昇華させて封じ込めながらとり入れてしまう −狭いスペースを存分に生かした、いや、狭いというネガティブな部分をデッド・スペースから、限りない広がりを持つ生きた空間に転換させてしまう、日本人のしたたかな美意識をそこに見ることができます。 近年、伝統的な町屋が次々に現代的な装いに姿を変えていきます。 都市のなかで、自然と交感することがむづかしくなり、狭い家屋に住まうことを余儀なくされた私たちにとって、"坪庭" という小さな空間の利用法にこそ学ぶことが多いように思えてなりません。

会場には、実際に一つの大きな坪庭をつくりました。 畳敷きの部屋に見たてた軒先からご覧いただくという趣向です。

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