携帯の形態展
−旅するかたち−
ごあいさつ
人間の生活に移動はつきものです。メディアがいかに発達し、物流システムがいかに整備されても、やはり私たちは必要に迫られ、あるいは自ら進んで、あちらこちらへ飛び出していきます。
そのために必要な、吟味されたいくつかの道具を携帯して―。辞書を見ると、「携」=手にぶらさげる、「帯」=腰にさげる、とあります。
たとえば遊び。 煎茶では、提藍と呼ばれる籠に茶器をしつらえて、風光明媚の地に遊び、風雅な野点を楽しみます。 香道でも、火の用意のあるところ、どこでも聞香を楽しむことが心得の一つとされています。 僅か12cm程の竹筒に、香木や銀葉(=雲母の薄板。この上で香を焚く)など一通りを収納する携帯用道具の蓋に、旅行きの聞香を「・・・これにまされるものあらむやは」と詠まれています。 宗教もまた例外ではありません。 カトリックの神父は、教会に来られない信者の元へ出向き、小脇に抱えたケースの中から、パン、ぶどう酒、聖水棒などを取り出して聖餐式を行います。 言うまでもなく、旅は携帯道具の宝庫です。 ヨーロッパにおいては、18世紀の植民地政策と博物館学を背景に、日本においては、江戸中期、参勤交代により街道や宿場が整って、爆発的な旅行ブームが起こります。 この時期作られた道具には、技術の確かさと、ユーモア溢れる創意工夫が随所に見受けられます。 こうした道具は、単に機能やデザインの美しさだけではなく、ハレの時間と空間を人間と共有するモノ自身の存在感と、その作り手達の情熱さえ感じられます。 携帯道具を手に取って開ける時の、ワクワクするあの一瞬は、作り手と使い手の想いが出会うその瞬間なのかもしれません。 INAXギャラリー |
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図録・BOOKLET『
携帯の形態』 (在庫切れ)
INAX出版が発行する建築とデザインを探検するシリーズ |
ギャラリー名古屋 |
1993年6月〜8月 |
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