広くアジアに分布する漆科漆属植物の「うるしの木」から採取される樹液は、耐水性、耐薬品性にすぐれ、接着力が強く加工のしやすい天然素材として、古い歴史をもっています。
独特のしっとり、ふっくらとした深みのある風合いも好まれて、食器や調度品、床や柱、また金箔の下地にと、万能の活躍ぶりです。
本展では、「漆」をさまざまな角度から取り上げ、天恵の優れた特質をもつ「樹液」として、改めてご紹介します。

たとえば、「ジャパン」の呼び名で世界に通用する漆器をみても、日本の伝統的加工技術の独自性、そして水準の高さは折紙付きです。 全国22ヶ所の漆器産地は、それぞれの風土に合った素材を用い、技法を競い、まさに百花繚乱の趣です。
また一方で、手間とコストを減らすため、スプレー塗装やフィルム状にして貼ることのできる漆や、バイオテクノロジーを駆使した人工漆の開発、工業製品への応用や、若手作家たちの自由な創作活動など、伝統の枠にとらわれない新しい活動も活発です。

是非会場で、優れた素材だけがもつたくましい大らかな存在感と、繊細さに触れてみて下さい。
永く人々に愛されてきたこの天然のスーパー塗料は、未来への可能性を秘めて、今もゆるやかに進化しつづけています。

なお本展に際し、多くの皆様のご指導とご協力を賜りました。改めて、厚く御礼申し上げます。

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