gallery2

2001年9月のINAXギャラリ−2 Art&News
SUZY HUG-LEVY (スージー・フ=レヴィ) 展
− やさしい人体 −

会期:2001年9月3日(月)〜26日(水)
休館日:日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



やさしい人体、そしてやさしい社会へ

松永康 (学芸員)

トルコは文化的に長い歴史を持つ国ですが、現代美術の歴史はまださほど深くはありません。 現代美術を紹介する美術館や画廊も決して多くありません。 しかし、今日では数多くの現代美術家が、本国やその他ヨーロッパの国々で積極的に発表活動を行うようになりました。 また、本年で6回目を迎えるイスタンブル・ビエンナーレを見ても、新たな美術に対する関心がトルコ国内でかなり高まってきていることがわかります。 この展覧会は、これまで日本に紹介されることの少なかったトルコに焦点を当て、こうした古くて新しい国、トルコを拠点に活躍しているスージー・フ=レヴィの作品を紹介するものです。 フ=レヴィは、1990年代の初めから常に先端的な作品を発表し続け、昨年度はトルコのベスト・アーティスト・オブ・スカルプチャー賞に選ばれました。まさに今、トルコで最も注目を集めている美術家と言えます。

フ=レヴィはふだんは主婦として、一人の母親として生活しています。 女性としてのあたりまえの生活の中から身近な素材を選び、慣れ親しんだ技法によって作品を制作しています。 あるときは衣装の形に針金を編み続け、またあるときは延々と新聞紙を折りたたんでゆくといったぐあいです。 こうした営みの中で現れては消える精神のゆらぎが、これらの造形の奥底にゆっくりと刻み込まれてゆきます。 自らが費やした時間をありのままに提示することで、女性に与えられた役割や位置を見る者に静かに語りかけるのです。 そこには、理念を優先した主義主張などよりも、もっと深遠な問題提起が潜んでいるように思えます。

また、フ=レヴィはしばしば自然環境との関わりの中で自らを表現してきました。 1992年に廃屋となった食堂を使って行った展示では、周辺の木々や風や光と一体となった環境造形を手がけました。1994年の[天使の羽]では、作品を海辺で燃やすパフォーマンスを行い、灰となって消えてゆく人工物を象徴的に表しました。近年では、大量に消費される印刷物を用いて存在感のある造形作品を組み上げています。 今日、資源の有限性が社会問題となるにつれ、美術の世界でも材料の節約や再利用が求められるようになりました。 環境汚染との関わりから、作品に用いられる素材や制作過程で排出される化学物質の有害性も問われるようになっています。 未知の技術や方法論を次々と開拓することよりも、人々が慣れ親しんだやり方で今日的な表現を模索することが重要な課題となったのでしょう。 フ=レヴィの作品には、女性性の静かな主張と自然環境に対する奥ゆかしい配慮が満ちあふれています。男性原理による社会構造の終焉が語られる今日、それは新たな社会的価値の創出を示唆しているようにも思われます。




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