gallery2

2002年1月のINAXギャラリ−2 Art&News
河口龍夫 展
― [関係−小さきもの] ―

会期:2002年1月7日(月)〜29日(火)
休廊日:日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



健康で欲ふかな農夫

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

河口龍夫の作品はどんどん立派で崇高になっていく、と感じて10数年がたった。[関係−]というタイトルの連作なのに、関係をはばまれている感覚だけが強くなってきて、その思いをある日率直にことばにした。[入澤さんが僕に足りないと思っている作品も、いっぱいある]と返事が返ってきた。売り言葉に買い言葉、[じゃあ、週末に作品を見に行く]と言って、20年ぶりのINAXギャラリーでの個展になった。

今回は、親密で小さきものへ、圧倒的な質と量で、健康で欲ふかな農夫のように関係してきた河口を見せたかった。現代や、抽象という表現からは、なぜユーモアのようなフェロモンが抜け落ちていくのかというのが、この間のさまざまな素材の美術作品に対する私の関心事だったが、河口があえて発表する機会を持たなかったこれら日記のような、ひめやかな小品を前にして、彼のありようを少し責めたい気持ちも湧いていた。いつも正義や社会や批評という大きなテーマを連想させ収斂していきそうなダイナミックな会場構成にも、私のこころは反発していた。
たとえば鉛や、電極や金属チューブなどを素材とした作品からは、人工素材の大量生産の社会の閉塞感ともいうべき感覚があらかじめ脳と網膜にセットされてやってくる。たとえば鉛に閉じ込められた葉っぱや種もまた、死や終末感を感じとってくれとでもいいたげに迫ってくる。枯れたひまわりからも、現代社会の諸相ばかりが立ち上ってきて、夏の日差しや土の匂いは全く失われている。そう感じてしまう現代美術病に感染している私のステロタイプな部分も問われているのだが、少しの反省のあとから、感情の反発はやまなかった。
種や植物や蜜蝋に思いを託す河口は、まるで農夫のようじゃないか、農夫が香りを封じこめた作品ばかりを発表しているなんておかしいと思う気持ちで迫ったら、自家用に、素朴で香りたかく豊潤な作品をいっぱいもっていた。
現代の芸術が、脳の回路を断ち切っては見ることがかなわないものなのだと、深い疲労感に襲われることがしばしばある中で、意味や解釈も内包しつつ、それらのどれとも違う粟立ちがやってきて、知覚されてこなかった感覚の覚醒を迫るのが作品の力であり、動いていく時間なのではないか。そのときに覚醒をうながすのが、概念をまとっていないかに見えるこうした作品なのだ。

きれいで珍しい切手が貼ってある来信のハガキや封書を、水彩絵の具や色えんぴつで彩色したものがたくさんある。ひんぱんに行われる大学の会議資料を1年分束にして封印した作品もある。ひまわりの種が全身にまとわりついているステッキもある。箱には、特別な才能を発揮する。ダンボールのものにも、金属の箱にも、必ずそこには秘密めいたささやきが注入されている。小さなものには、日々のリアリティが溶解している。勤勉な農夫が生育日誌をつけるようにつくったものは、知らず知らずに血肉になるのかもしれない。
河口の作品が、かつても今もずっと持っていたういういしさとふくよかさを見たいという思いが実現した。少し過剰に言えば、こうした作品をとおして、立派で崇高な作品群がはじめて伝わることもある。2003年春の大学退官を目前に、河口は深みを刻んだ農夫の表情も、率直に見せてくれそうだ。




展覧会TOP PAGE 作家略歴 INAXギャラリー2
2002年の展覧会



INAX CULTURE INFORMATION
http://www.inax.co.jp/Culture/culture.html

ギャラリー2へのご意見、ご感想、お問い合わせ等はこちら
E-mail:xbn@i2.inax.co.jp

本ウェブサイトからの無断転載を禁じます

symbol
 Copyright(C) INAX Corporation
 http://www.inax.co.jp