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2002年5月のINAXギャラリ−2 Art&News
渡辺信子 展
― 布のいろGreen and Green-stripe ―

会期 : 2002年5月1日(水)〜29日(水)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



大好きな服のような

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

親しい若い知人から興奮して電話がかかってきた。「渡辺さんの新作、すごいの。入澤さん絶対行くべきよ」と。
2001年の夏、渡辺信子は西宮市大谷記念美術館の全室の床や壁に縦横に、作品をあますところなく見せるような展覧会をしていた。天井も高く、床置きの作品もさまざまな距離で眺められた。2階にあがって、新作に遭遇した。知人の興奮が手にとるようにわかった。
新たな色、グリーンの単色とグリーンと白のストライプを組み合わせた大作2点には、いままで見た瞬間の感覚では語れない、全く別の世界が開けていた。最も近いのは、何十年もあこがれて探しつづけてきた服が見つかったような感覚、とでもいえばいいのか。嬉しさと嫉妬のようなものが熱になって全身をめぐっているようだった。
渡辺のここ数年の作品の豊穣さについてはあらためて語るまでもないが、その展覧会にはドレスの残りきれを使ったような小さな作品も並んだ。生まれ育った土地で、少女時代からずっとしたいと思っていたものを、残らず見せてくれたような展覧会だった。6mをこえる壁の「Green and green-stripe」の前で、2002年にINAXギャラリーでの2回目の展覧会を依頼しようと決めていた。

渡辺信子の作品に対する嫉妬に近い感情とはなんだったのか。「この作品のような服を着て、この作品をブランケットのようにして包まれて午睡したい」ような相反しているのにリアルな欲望。圧倒的なリアリティで、好きな作品と好きな服が合体したかたちで現われたようなできごとだった。
この時までの渡辺は、作品にするホワイト、グレー、ブルー、イエローなどの布の選び方に、有色だが綿キャンバスに近いニュアンスの布地を探し出してかたちをつくっていた。白はチーズのような白。ブルーはアイリスの花の色、黄水仙のイエローのような純色にホワイトを混ぜた色合いで染め上がった布を素材にしていた。しかしそれらは暗黙に、美術作品とは生成りの感覚を保持したこうしたマテリアルがいいのだという選択を継承しているように見えた。だがグリーンの布をつかみとった渡辺は、この瞬間に、美術の系譜のようなものを無意識にあっという間に超えた。作家にとっては、簡単には逸脱できない自らの新たな質感をつかみとるという事態を、なぜやすやすとできたのか。それは渡辺の、好きなものと無垢に向き合い、没頭するという制作への資質が、醸成のときを迎え全開したからだ。

私たちは服を全身で毎日体験してきた。何千回も何万時間もかけて布や糸の色や織り方に触れ、それらが似合うか新鮮さを感じるかを確かめ、着やすいか、場にふさわしいかというバランスまでを計測して過ごしてきた。私たちがいちばん多く接してきたのは、布という素材でありかたちであり色彩だった。だから渡辺信子の作品を、探し求めていた服のように現われたというところでつかまえることができた。作品が着てみたい服のような貌と、好ましい美術の貌という双面であわれたことの意味は、美術が身近になったということではない。すでにある布が、より深く美術を構成していく素材としてしぜんに感じることに感動しているのだ。
パリでめぐりあったという、グリーンという官能にであえる初夏が待ち遠しい。




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2002年の展覧会



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