gallery2

2002年8月のINAXギャラリ−2 Art&News
INAXギャラリー特別 展
− 10daysセレクション―予兆のかたち 3 −

後藤智 展/ 会期 : 2002年8月1日(木)〜10日(土)

赤荻武 展/ 会期 : 2002年8月20日(火)〜30日(金)

休廊日 : 8月4日(日)、8月25日(日)

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



後藤智 ― 焦点のない光景

後藤智の作品は、米軍基地の住宅とその周辺の光景をモチーフにしている。まずカメラでお気に入りの建物やその週辺を撮影し、プリントを見て、ガラスに描いていく。ガラス絵というジャンルだが、ガラスに描く技法も、モチーフが風景なのもいまは希少だ。
作品は赤、白、黄色、緑、青とグラビア印刷のような原色が眩しい。1950年代アメリカのホームドラマからもたらされた、もっと翳りのない光景がそこにある。風景や光景の、写生ではない写真模写。ファインダーやレンズという幾重もの透明な膜を通してきりとった図像を、無反射ガラスに現像するように描く。ガラス絵とは、キャンバスや紙に絵具をおいていく順序と逆にすすむ。家ならば小窓、空ならば雲、面積の広い屋根や壁や、芝生や空は最後になる。ガラス絵とは、視覚を視覚のままに見せる装置で、焦点という願望を消す。
ガラス絵とは、モチーフというあるかに見えるものを、ないのだというリアリティへと連れていく。後藤の特異な視覚が、見果てた先の見果てぬ感覚を、無反射ガラスという支持体を得て、鮮やかに出現させた。

赤荻武 ― 無常な豊穣さ

赤荻武は、フィリップブック、つまりぱらぱらマンガ形式の小さな写真集を何冊かもってきた。若い世代に多く見られる、ものによる日記の一種で、ともだちと行ったさまざまな場所での表情や行為や風景が写されたものなど、多くが時系列をたどるかのように、ブックやカードのようになっていた。その中でとりわけ面白かったのが、「毎日洋服を変える自画像」。
そう多くはない洋服を組み合わせて毎日違う服装をする。アパートを囲むコンクリート塀をバックに、毎日同じ位置にたって、日付入りで撮影される。多くが経験しているであろう「今日は何を着ていこう」というぼんやりとした拘束感と二重映しになって、四苦八苦がアイデンテティとでも言いたげな感じに微苦笑がわいてくる。 「毎日」と「違う」がセットになっていることが深くせまってくる。しかし赤荻の毎日が真実であるところにカンドウしたわけではない。カメラの日付なんて変えられる。背景だって、風景だって誰にも無数にある。実は赤荻の作品が伝えていることは、誰もが「同じように見える風景」と「同じような服装」の中にいる光景の塊感を伝えていたからだ。一人が着る洋服の数や色やかたちの無限ともいえる順列組み合わせの、無常な豊穣さがせつない。


入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)




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INAXギャラリー2
2002年の展覧会



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