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2002年10月のINAXギャラリ−2 Art&News
堀 愼吉展
― 大地の種 ―

会期 : 2002年10月1日(火)〜29日(火)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



大地の種

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

土が静かなブームだという。ブームというのはこわい。流行れば、流行らなくなるという事態が眼前に迫っているということだ。私にやってきたできごとは、できるだけ流行らずに、伏流水のようにあってほしい。少しさがせば、満々とあるもののように。
土は、ブームということばの、はるかかなたにあるもの、そしてここにあるもの。

企画の時期から数えると、3年以上、土まみれになっている。土そのものをテーマにした巡回展を2回、土を素材にしている作家の個展は、堀さんで4人になった。何かを伝えていくという触媒のようなしごとの中で、できごとは重なり合ってやってくる。土もそうやって私の目の前にあった。だから堀さんの案内状に誘われた。
堀さんには何度かお目にかかっているが、作品を見たことはない。評論活動とともに、考える人という印象をもっていた。
2001年の初夏、堀 愼吉さんの展覧会は、山梨県の勝沼に近い「釈迦堂遺跡博物館」で開催された。「釈迦堂遺跡博物館」での個展というのもなにかふしぎな気がして、そこにも惹かれた。その遺跡は、近年高速道路の工事の際に発見され、大量の遺物が出たという。 堀さんの作品の多くは、企画展示室のガラスケースに入っていた。それだけで、未知の遺物のようにも見えてくる。土の作品に特有の、粒子のひとつひとつが向かってくるような感覚がさえぎられているのがもどかしかった。このときの堀さんの作品には、なまの土を絵の具にしたものと、土を焼いた陶板片で構成した二通りあって、なま土を素材にしてるので土画か、ドガとつぶやいてみたら、画家の名前。作品はパウル・クレーの絵にもつながり、粘土のクレーともつながった。ことば遊び、いや言霊かもしれないと思って、ドガとクレーと愼吉の、釈迦堂遺跡の出会いを楽しんだ。

堀さんの作品は、限りなく無名にむかっていた。誰の作品であるかというところから、遠くありたいと願っているように見えた。
しかしなぜ、土とは微光を発し、微光を吸収してしまうもののように感じられるのだろう。土を見て、触れた記憶をたどってみると、土とはどんな小さな単位になっても陰影をもっている物質のようで、土とは何かとまじりあっても、土でありつづけるものだった。
作品のシリーズ名は「大地への返信」。堀さんは20年以上もまえから、土や石と向き合ってきた。土との長い対話をおえて、いま返信のときなのだろう。
去年の個展について、ご自身の文章はこうはじまっている。『全国に例をみないくらい大量に出土した釈迦堂遺跡の土偶たちは、土偶の形に創られたあと、バラバラに解体されて、大地の上に生命の種として蒔かれたと考えられている』と。
作品というものも万物とおなじように、すべて大地の種であり、やがて草木になり、まためぐってまた種になるのだという想像は、きもちがいい。
堀さんの山梨の住まいの近くの、ほの明るい色どりの、大地の種がはこばれてきた。
隣りあった色やかたちは、ばらまかれたかたちのようでありたいと願いながら、神の手ならぬ愼吉の手の、かすかな痕跡を示しているが、とても清らかに示している。




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