gallery2

2003年2月のINAXギャラリ−2 Art&News
INAXギャラリー特別展
− 10daysセレクション―予兆のかたち 4 −

槙原泰介 展/ 会期 : 2003年2月3日(月)〜13日(木)
鈴木ヒラク 展/ 会期 : 2003年2月17日(月)〜26日(水)
会期中無休

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。


なつかしい未来感覚

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

アーティストに生まれるのか、なるのかは判然としないが、自分のまわりにあるモノや素材やかたちになじめないことが、何かをつくる出発点になることがある。すでにあるものが息苦しくて、解体せずにはいられない衝動をもっているから美大を選んだのだろうと思われる若い作家に、また出会った。なぜその素材で、そのかたちになったのか、はっきりとはわからぬままに、奇妙な感覚を呼び覚ます作品に出会った。

会場写真

槙原泰介のポートフォリオを見て、「やおい」というコードを思い出した。やまなし、おちなし、いみなしというありようへの親近感をにじませ、私は誰にも理解されない、理解させないと決意しているような作品だと感じた。その中で粘着テープを素材にしたものに惹かれた。粘着テープのような日常的な消費財を素材にした作品はいま無数にあるが、小巻きのテープを解いていき、太く、高く、長くしていく行為が新鮮だった。車輪の大きさほどになるまで巻きなおしていく行為の、神妙なおかしみ。あるときは床から垂直に立たせているが、先端はカンナ屑のようにカールしていて、建築の頭柱の装飾を想起させる。あるときは、粘着テープが床を伝い、壁を這い上がっていく。床と壁の接する個所はテープの存在を示すように、すきまを開けて渡っていく。粘る物質をもつテープは支持体であり、接着の道具であり、膜のようなものでもある。それで棒のようなものにし、空間にU字型の結界をつくったりする。粘着テープというはかなさが思わぬ濃密さを見せたり、工作ごみのような失敗感や未完感覚を提示することもある、欠落感というエネルギーに惹かれた。

会場写真

鈴木ヒラクは土だった。土と葉脈。その単純で豊穣な土と葉脈の関係性を過剰に意識した作品は、素朴な「もの派」のようであり、なつかしい「もの派」のようにも思えて、微笑ましさと痛ましさがまじった気持ちになった。痛ましさとは、90年代頃からまるで「粒子派」と呼びたい元素や組成の拡大縮小のモチーフが次々に現れてきたときから、予兆の先のかたちがほとんどあらわれてこなかったからだ。土や水や廃棄物が素材の、朽ちていくもののモチーフに、次を予感させる作品は少ない。ただ朽ちているものの真っ只中にいて、どこまでもそこにいるという空白を受け取るばかりが続いている。だが、空白そのものを嘆いているわけではない。空白のエネルギーを信じなければ作家という存在と、作品という表現までが消えてしまうからだ。
土は、重力を真っすぐに受ける膜ともいえる。その膜から深部におりていくもの、膜の表面を丁寧になぞるものなど、土という素材と表現には観客をものめり込ませる魔力がある。だが土は簡単に、文明の、都市の、汚染の、終末のメタファーにも化して、その魔力を消す。 鈴木ヒラクは土の一歩を踏んだ。葉脈に土をかぶせ、葉脈をかたちとして探し当てるという行為は、これから深くにもいけるし、遠くにもいける。
ふたりの作品は、なつかしい未来感覚のなかにある。




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INAXギャラリー2
2003年の展覧会



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