gallery2

2003年3月のINAXギャラリ−2 Art&News
水谷一 展
― 磁力の線画 ―

会期 : 2003年3月3日(月)〜27日(木)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



傷のシンクロニシティ

入澤ユカ (INAXギャラリーチーフディレクター)

会場写真

水谷の作品と遭遇したのは一昨年、群馬県立美術館でだった。ハイウエーのジャンクションとおぼしきモチーフの前で足がとまった。渦巻く磁力と螺旋のエネルギーをもった無数の傷のような線で描かれた作品に、吸いこまれていく感覚をあじわった。空間とそこに浮遊するものや、構築物や未来の時間までを、コンテの墨色のタッチで、世界を分子解剖したように描かれていた。わら屑のような、うごめく菌のようなタッチが集積したハイウエーのジャンクションは、際のない場所に浮いているように見えた。

作家には、虫派か鳥派ともいうべき分類をしたくなるひとがいる。にんげん業ではないという意味だ。制作とは何かに促されてはじまり、ひたすらなタッチの果てに、名づけようのない塊の、あるひとつのものとしてあらわれてくる。無意識と意識と技術と生理が渾然一体となって、なにかがあらわれ出てくる。無意識の量がはかりしれない作家こそ、私が待っている作家だ。水谷は、じぶんの行為をスタティックだという。しかし内部ではたぎっているのだ、とまらない。縦よこのリズム、濃淡のリズムが画面に渦をつくっていく。サークルのかたちができていく。波や風がつくる紋のように、筆致にエネルギーがこもり、方向性がある。鼓動が定着されていく。水谷は虫派、鳥派だ。鳥瞰や虫瞰をもったものは、にんげんの視点をやすやすとこえていく。
近作は、紙にコンテで描くという形式が、放縦になってきた。紙の周縁がぎざきざな円弧になり、こぶのように半島状に開かれている。太陽に反応したひまわりの花びらのようなアイランドをもつ地形。埋立地がどんどんできていく途中のかたち。あるいは極地に氷が寄ってくる塊のはじまりのかたち。集積していくエネルギーと解体していくエネルギーが紙のなかでぶつかり溶けて、支持体という約束からも滑り落ち、作品は壁から床へと侵入した。藁の一本が吹き寄せられて、やがてあたりを覆い尽くすように、果てしなさと、空無の両極を響かせている。床におかれた作品はタッチによる傷の反乱の勢いのままにたわみ、つぶれ、丸められてある。くしゃくしゃの皺だらけの立体になった紙は、増殖と死滅のエネルギーを包んだもののようだ。
傷のタッチが吹き寄せられたモチーフは、エアポートハイウエーやハイウエージャンクションと名づけられてきたが、次第に身体症状や日付のタイトルにかわってきた。紙ぜんたいやタッチの変化で次第にうごめき感を強め、不意にあばれ出しそうな気配も濃厚だ。オンとオフ、陽と陰の対極と混沌、あらゆるもののDNAを紋のように出現させてしまう彼の、無意識の量の増大を感じる。

水谷の作品には、広大無辺などこかでおきている数しれぬシンクロニシティや、ブラックホールならぬホワイトホールとでも呼びたい真空感がある。作品とは何かをあらわすものではなく、何かの原質をあらわすものなのだと思う。水谷の荒ぶるタッチは、うごめく誕生と死滅をくりかえしているのだろう。




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