gallery2

2003年7月のINAXギャラリ−2 Art&News
植松奎二 展
― 滝・fall in art ―

会期 : 2003年7月1日(火)〜28日(月)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



伝導する個体

入澤ユカ (INAXギャラリーチーフディレクター)

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思い込みで言うのだが、関西の作家に特徴的なことがある。日常でもさぞや面白がりに違いない、と思わせる何かが、作品ににじみ出ている。 5月、北九州市立美術館で植松の展覧会「身体と眼差しへの思考−'70Sの写真・映像から新作まで−」を見ながら、 植松の面白がりの原点に触れたような気がした。
昨年大阪の「ノマルエディション」で、これら70年代の写真作品を少し見たが、美術館だとよけいにおかしみが際立つ。 「身体と眼差しの思考」というタイトルだというのに、裾の広がったジーンズで長髪の植松の、くそ真面目な表情でポーズをとっているような 写真に、何度もくすくす笑った。
たとえば「波動態・・」というシリーズで、石を紐でくくって、まわしたり、放り投げたり、何かを計ったりしているものがある。
まるで、遊び方の本のために特別に撮った写真のようだ。「紐と石の遊び四十八手」「手と影の遊び四十八手」「水とからだの遊び四十八手」と 名づけてもいいような、たくさんの発見の真っ只中にいる植松の姿は、多くのものを伝えているのだった。 にんげんの身体性と外界とものとの関わり、そしてそれぞれのエネルギーを、あらん限りの想像力で、懸命にかたちにしようとしていた。

私が当時その場所にいてその行為を目撃したならば、きっと、「関係」や「倒錯」や「眼差し」や「思考」に絡めとられたはずである。 なぜなら作家がそう語り、命名していたからだったが、今は、くすくす笑いながら思いあたる。
植松とは、よくやった子供時代の遊びの、何でもないそんなものだったようなことがらについて、言い募り、考え続け、感動し、 見える構造、見えない関係の、そのまた転倒などということを命題にして抱えてしまう存在なのだ。
「世界の構造、存在、関係をよりあらわに見えるようにして何かを発見したい。見えないものが見えるようにしたい」とずっと語り、 今も語るが、子供時代の私にでも、力のようなものでいえば、押す力、引く力、押される力、振り回される力、投げる力、張る力などを知っていた。 相撲や柔道の技にふしぎな結果であらわれてくる、組み手とじぶんの力の加減による、千変万化の現象を知っていた。 知らなかったのは、それらが「世界を知ること」で、「制作したり」「発表したり」して「伝え」なければならないものだとは知らなかった。

新作は滝。圧倒的な水量で流れる滝を撮影したものを、囲われた空間の三面の壁に映し出す。 「轟音を響かせて、水しぶきがかかる迫力の」と紋切り型の描写をしたくなるのをぐっとおさえて、なぜ今「滝」なのかと思う。 だが映像に濡れ、流され、包まれて知覚する。植松はある日「滝」に出会った。「滝」に驚き、感動した。落ちてくる水塊に、昇る水塊をも想像した。 しゃにむに、ひたすらに、ただまっすぐに水や滝を掴みとって、知りたい、見せたい、伝えたいというところへ向かう。 誰もが知っていると思ってしまうことを、なかなかわかろうとしない稀有な個体が植松奎二。
立つものは逆さまに、落ちるものを昇らせ、動くものを止めるから、私たちのいるところの、無限で豊饒なありようが伝わってくる。
伝導する個体、植松奎二の展覧会は21年間で4度目になった。




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