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2004年2月のINAXギャラリ−2 Art&News
北山善夫 展
― 絵画の言挙げ ―

会期 : 2004年2月2日(月)〜3月2日(火)
休館日:日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。


絵画の言挙げ

北山展 北山展
2年ほど前に韓国の慶州とソウルの二つの国立博物館で常設の新羅土偶を見て、震えた。5cmほどの土くれでできた土偶には馬上のひと、舟を漕ぐもの、奏楽や拝礼するものなどのほか、いままさに産道から赤子が出ようとしてるものや、土くれが重なりあって性交しているものもあった。私は新羅土偶なのだ、何千年も土くれが営んでいるものと変わりないものだと、その出土品のたたずまいに、圧倒された。
私が見た新羅土偶は常設展だったが、1997年に国立慶州博物館で開催された「新羅土偶展」の図録を手に入れた。その展覧会は、土偶の姿態を猥褻なものと見た観客も多くいて、物議をかもしたと後で知ったが、私には、土くれのすべてが無垢で奔放で清らかなものに映った。

1997年といえばこの年に、INAXギャラリー2で北山善夫展を開催した。そのときの絵画作品が新羅土偶と重なる。木や竹と紙や皮革などで立体作品をつくっていた北山のもうひとつの衝動が、粘土で人体をつくりその姿を紙にペンで写していく絵画作品と、宇宙図になって「絵画の誕生」という展覧会名で噴出した。人体も天体も生まれては消え、チリのように舞い、土中の粒になっていく。北山が果てしないものに向かいはじめたことを、溶岩の塊が落ちてきたような感覚で知覚させられた。
その後北山は、2000年に越後妻有で行われたアートトリエンナーレ「大地の芸術祭」に参加して山深い廃校を選び、そこに木や竹と紙での立体を、校舎から飛び出すようなかたちで浮かばせたが、壁には事故や事件の死者たちの記事を貼り付け、天井からは小さな羽のある天使の椅子をいくつも下げた。天使の椅子とは、阪神大震災の死者への鎮魂なのだという。北山が直截的に生や死のモチーフを表現したのは竹の枝を使いはじめた1979年からで、自身の少年の頃の大病がきっかけだと言うが、ますます深まってきた。世界中の死がメディアから降るようにやってきて、多様で無残な死を知れば知るほど、死も生のリアリティももてなくなってしまうことに、絵画をもって言挙げた。

今展も生と死と宇宙が、事件や無残さや闇や瞬きがモチーフである。以前にも増して人体や宇宙図は、メディアにあらわれる像と対極の特徴を深めていく。きらきらぴかぴかと誇示するものに対し、ごつごつと瘤だらけで、引きつった肉や窪んだ筋をことさらに示す。目を奪う不気味さこそが、覚醒への第一歩だと促がしているようだ。
一体が、斜めに倒れそうな一体を支えている「生まれてこなければよかったと思ったときもあろう」。中腰で立つ女性の性器から赤子の頭部が出た瞬間の「私に歴史が突如してやって来た」。粘土のひもが絡まりあって積み重さなっているような、何百体というにんげんを描いた「歴史は死者がつくった」というタイトルの作品群。紙にペンで刻む北山善夫の生殖や出産や死や宇宙の像を、6年余の年月を経て再び迎える。一層苦渋をまとってあらわれてくるのだろうか。私は死者を鎮魂する初々しい新羅土偶のように、未来を孕んだ群像が見えるような気がする。

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)




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INAXギャラリー2
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