gallery2

2004年6月のINAXギャラリ−2 Art&News
べ・サンスン 展
― 主白の絵画 ―

会期 : 2004年6月1日(火)〜28日(月)
休館日:日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

主白の絵画

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

どんなモチーフでも、それがどこにあっても、誰の作品かわかることがある。この色彩と余白の切り取り方は、その人以外には考えられないということがある。手の癖なのか、空間の切り取り方の癖なのか。癖とはオリジンとスタイルとも言えるが、作品を見て、その人がかたちにあらわになっている作家だなあと、ベ・サンスンに目がとまった。べ・サンスンは韓国の美術大学卒業後、日本の美大で学ぶ若い作家だ。
作品は、白い地に黒々とした火の玉みたいなかたちから立ち上がっていく曲線が特徴で、画布のなかに、かたちの体言止めとでも言うべき様相を見せている。光学的な色彩の氾濫するなかで、画布の白と黒が、視覚の口直しのように作用した。
作品は、キャンバスに墨のドローイング。墨は黒々としている。墨色の無段階の濃淡は時として饒舌なものだが、ベ・サンスンは睨みつけるように意識的に、黒々と使う。墨色のかたちの稜線に、炭色が底光りして影のように添うとき、その淡い影によって、かたちと空間がいきもののように、動的になる。作品はドローイングという呼称より、描画や書画のようにも感じる。だが書画と一線を画すのは、文字にも見えそうな線のかたちを、その際で、図像的緊張に戻すことだ。展示にも彼女の法則がある。単体作品と、キャンバスの対または3連、4連作品を構成して、石庭の石を置くように考察して展示をする。そのこだわりがまるで美術道といった作法への傾きにも思えて、少し重くて苦しい。空間展示は、まだ試行の途中だ。
私はべ・サンスンに、アジア的ナショナリティと凛とした造形を見て、好ましく思ったのだろうか。そんなニュアンスもあったが、ベ・サンスンの線がもっている生命感と、線で思考し、画布で思考していることが、ありありとそこにあることに惹かれた。
近作は、黒いかたちから曲線が立ちあがり、あるいは四方にのびていく。対の作品は、同形の時間のズレを思わせて配置される。じっと見ていると、抽象形のキャラクターが踊っているような、植物の根が摂理に反して上に伸びているような、あるいは、斜めや横に浮遊する変種のくらげのように見えたりする。どれも強い印象を残すのだが、展覧会場で一巡したあとに振り返ったとき、かたちが反転して見えた。組みになっているキャンバスの、隣接部の目地のような空きが入り口となって、そこから黒いモチーフが白いモチーフへと入れ替わってしまった。余白に思われた白い部分が、「主白」になっていた。「主白」とは造語だが、べ・サンスンは、線やかたちの拡大縮小の思索を通して、余白は「主白」でもあると無意識に示していた。無意識力の多いことが、いつ、どんなときでも「その人」があらわになってしまう作品をうみだしてしまう作家なのだろう。

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)




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