gallery2

名和晃平 展
- 0409・サイエンスフィクション -

会期 : 2004年9月1日(水)〜9月28日(火)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

ビーム光線の祈り


視覚の理がビーム光線のように射してくる。生成する泡までが、クリスタルのようにきらめき、物質の粒子が硬質と鋭角で刺すようにやってくる。名和晃平から生まれでる物質と事態は、次々と素材を変えてもきれいな着地をする。だが、その変容と際立つ見事さに、私の情動がかすかに硬直する。理にからめとられ、瞬時に未来感覚の光線にやかれてしまったのではないのかと。

名和は、「PixCell」という造語をつくった。多くの作品が、そのことばで提示され、多くの人がその造語から彼の作品を語りはじめる。

デジタル画像の画素を示す「pixel」と細胞「cell」を合体させた「ピクセル」という造語を「ふーむ、なるほど」と思った時点で、彼のことばに絡め取られる。一瞬にしてデジタル画像の画素と細胞のイメージが脳に取り付き、目の前にあるものに、「あぁ確かに、PixCellなのだなぁ」と向き合ってしまう。コピーライト大賞を先に授与したいほどの命名の見事さに、情動がかすかな揺れを示したのかもしれない。だが、本当に見事なのだ。彼からあふれ出るcellは、多様な立体や平面のピクセルになり、ここ2年ほどの間に、多くの展覧会と受賞が続いた。


美術作品の多くが、コメディアンの萩本欽一が司会し、市井の人々が挑む「仮装大賞」に似てきたと感じてから何年も経った。初期の仮装大賞は、人間が自分以外の人や動物の姿態に仮装することを競っていた。長い年月を経て、今では状態や道具、家具や物語に仮装し、気配のようなものまでを仮装する出演者を見て、ある日笑いころげながら、ふと、何かに似ていると思った。美大の卒業制作展だ。学生の作品は2〜3年のサイクルで、ゆるやかな傾向を示すが、作品は、仮装の動きが終わったかぶりものや装置の残骸のように見えた。仮装大賞には、表現の切実さと空白と、白熱の今がつまっている。

名和を仮装大賞的に言えば、初出場でグランプリをとってしまった彗星だ。彼の力は動かないものを、動いているように見せ、見えないことと見えることを同時にあらわす。たとえばガラスビーズにくるまれた金魚や蝶や蛇、りんごやミッキーマウスまでが、ガラスの膜の中で生きていて蠢いているように感じさせる。水槽で泡を発生させる作品は、いまここで目に見えている泡を、少し離れたスクリーンに映すことで、太古からの記録映画のように写し出す。一方透明な箱に見え隠れするシマウマやイグアナたちは、光と速度の隙間から落ちて彼岸に住みついたものの秘宝感をにじませて遠い。時間の攪拌や反射、反転の理を駆使して、いま、ここにある未来と、もう、ここにない未来を出現させる。

「直感ではじめたことを、他の人に認めてもらえてうれしい」と受賞の挨拶で語ることばを読んだ刹那、直感に理をふくませて、素材や空間の命名力を推力にして疾走している名和に、2050年までも圧倒的なサイエンスフィクションをみせてほしいとビーム光線の祈りを捧げた。

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

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