2004年09月 ご紹介

神保町の老舗書泉グランデをご紹介します。
創業開店は戦後間もない1948年（昭和23年）10月、その歴史の名残りは店内の柱に付いているレトロな空調調整ダイヤルなどに見られますが、何より有名なのは、1960年（昭和35年）以来購入時にもれなく付いてくる、熱心なコレクターもいるという「しおり」でしょう。

同じ通り沿いにコミック中心のブックマート、秋葉原にブックタワー、川口と西葛西に計5 店鋪を展開している書泉の特徴は一言で言って「マニアック」。こちらのグランデでは、それはビルのカカトとツマサキに顕著に現われています。
地階の趣味・コミック、グラビア・アイドル写真集のフロアへと降りる階段の壁には、サイン色紙がビッシリと張られています。頻繁に開催されるサイン会などイベントも有名で、ファンの間で定着しています。

6階の鉄道・交通関連書の品揃えも有名です。こちらのフロアでは過去に、信号機を特集したINAX BOOKLET『GO・STOP』を試しに置いて頂いた際、それまでフロアでの販売実績がなかったにも関わらず、都内でもズバ抜けた数字を売り上げた事が、今でも強い記憶として残っています。
書籍・雑誌のみならず、DVDやビデオはもちろん、車両図面、プラスチックモデルや携帯ストラップ、シール、ピンバッチ、ものさしから目覚まし時計まで、こんな商品まであるのかと思わず唸るグッズ類が豊富に揃っています（鉄道グッズのガチャポンなど私は初めて目にしました）。
他のフロアもよくよく見て廻ると、4階/人文・精神世界、教育関連書フロアのレジ横にはチベット密教グッズ、ワゴンでは「たのしい自由研究/仮説実験教室」と題した何やら不思議な自由研究教材フェア（〜9/10まで）、2階/格闘技・登山・生物書フロアにはプロレスや野球のトレーディングカードや残部僅少の昆虫フィギュアなど、書店員のよれば「変なモノが売れる」そうで、これらは書泉ホームページ上にも情報掲載され、 店として力を入れているのが判ります。

INAX出版の本が置かれた理工系の5階フロアでもユニークな品を見つけました。天文の棚で平積みされているラジオ用天気図用紙と、アマチュア無線技士資格試験申請書です。無線関連書のコーナーには雑誌『ラジオライフ』バックナンバーが置かれ、棚の下半分が売れてゴッソリと無くなっていました。
5Fは他に環境、物理、数学、コンピューター書などが置かれています。入口の新刊平台では、最近の流行である"萌え系"を表紙や内容に取り入れた書籍が増えてきているそうです。

一昨年の秋から建築書などフロア半分の棚を担当している書店員さんはこの道26年のベテランです。以前は秋葉原タワー店の8Fにある知る人ぞ知るマニアックな棚の担当で「刊行3日が勝負なのに毎日毎日洪水のような新刊量で、棚に置いてからのサイクルも短く、息もつけなかった」そうですが、再び神保町に戻り、約10年振りに建築書の担当になって「じっくりと棚の面倒がみられる」とホッとした表情を見せていました。
宮脇檀著『それでも建てたい家』の文庫本を棚から抜き、「これが単行本新刊の時に担当で、この本は良く売れたんですよ」と懐かしそうに語り、当時はバブル期で5Fのレジは2台も稼動していましたが、「それに比べれば今の建築書にはあまり勢いがない」とのことで、版元としては耳の痛いところです。
ですが、棚のレイアウトを変えたり工夫次第で再び動き始める（売れる）のが、本の持つ不思議な魅力であり、書店員の腕の見せ所でもあります。例えば、それまで脚立に乗らないと手に取れなかったINAX BOOKLETバックナンバーを下の段に置いてみたら即、反応があったり、また最近では、刊行点数が増えてきたリノベーション・コンバージョンやサスティナブル関係の本を1つにまとめてみたら、これも売れ出したり、前の店ではなかなか出来なかった棚づくりを楽しんでいるようです。

お客様は殆どが男性で、中高年の方が多いように見受けられます。平日よりも土曜日が混むそうです。 1フロア60坪弱、地下1階から地上6階まであるビル店鋪には、エレベーターが計4台も稼動しており、殆ど待たずに目指す階に行かれます。
これは私事ですが、そのうち靖国通り側に面したガラス張のボックスに乗り、向かいのタキイ園芸の緑あふれる屋上を見下ろしながら目指す階に上がって行くほんの数秒の間、レトロなビルの雰囲気と相まって何だか童心に還れる気がして、営業時の私の小さな楽しみだったりします。

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