gallery2

牡丹靖佳 展
- 見立て・たくらみ・壺中の術中 -

会期 : 2004年10月1日(金)〜10月27日(水)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

牡丹のたくらみ


牡丹靖佳は、INAXギャラリー2が数年前からはじめた公募展「予兆のかたち」で2001年8月に展覧会をした。10日あまりの短い日程だったが、画廊空間をオフィスに見立て、事務机の引き出しや帳簿、鉛筆やソファに、忘れさられたものたちへの愛着を、美術的なしるしを隠喩のように仕込んだ。その牡丹のたくらみから連想したのは、みうらじゅんの造語「マイブーム」ということばだ。

「マイブーム」とは、わたしだけが発見し、ひそかに夢中になっている、ちょっとすごいもの、というふうに理解していたが、特徴的なのは、対象の事物より、見つけた「私」がちょっとすごいといっていることだった。牡丹の作品は、「マイブーム」なニュアンスをもった人々に特別よく響いたようだった。

見えるものも、そこにいることも夢の一場面のようなふわふわした感覚。日常にある、美術のようなそうとも言えないものを愛しく思い、作家と共有しているような感覚になれたのが、この時の展覧会だった。

その後2年ほどたって、牡丹の絵画の個展を見た。茶室のにじり口のように狭くした入り口から会場に入ると、いくつかの絵画が壁にかかり、それらの画面の背景は黄砂色に塗られ、絵巻や大和絵を連想させるモチーフと現代の事物を、消えかかった線や色彩で同在させていた。会場内の柱や消火器なども、作品の一部として取り込まれ、画廊じたいと作品が入れ子仕立てのように思われた。画廊にいて、今見ている絵画の中に私がいるような洒落ぐあいと、画面上で異物どうしの遭遇の驚きがムーブメントとして伝わってくるような魅力で、展覧会を決めた。

今展が近くなって、牡丹靖佳から展覧会コンセプトが送られてきた。そこに書かれていたのは、「逃げる絵画」という主題だった。とたんに不安になった。観念で展覧会はできない。「逃げる」という動詞が「絵画」についく作品が想像できない。加えてその数日前、東京都現代美術館で開かれた「トーキョーワンダーウオール展」で、そこ出品していたはずの牡丹の作品を見つけられなかったショックもあって、「逃げる絵画」に不安と違和の強い感情が生まれた。

「逃げる絵画」を再び探しに行った。ようやく見つけた。いくつかに仕切られた展示室の、次へ向う細い通路の、壁の厚みの幅に、観客の無意識と常識をからかうように、あるいはとびきり注意深い身体感度のいい人間だけが発見できるように、作品が埋め込まれて展示されてあった。

牡丹靖佳は才知がある作家だ。ペインティングもドローイングも、立体作品にも才知を見せる。だが、才知とはなんとやっかいなものだろう。表現と、それらを「消し」て「逃がし」たいという才知が働く場合もある。だが今は、違和と心配の葛藤を経て、牡丹靖佳の「消し」て「逃がし」ていきたいと思う感覚のあらわれに、蛍の光や花火の音や匂いの記憶のような、とどめようもないものだけがもつ、名状しがたくリアルな感覚の作品があらわれそうで、どきどきしながら新作を待っている。

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

展覧会 TOP PAGE

INAXギャラリー2 2004年の展覧会


ページのトップに戻る

INAX | mail:xbn@i2.inax.co.jp (件名・メールタイトルは必ずお書き添え願います ) |
Copyright(C) INAX Corporation All rights reserved. 本ウェブサイトからの無断転載を禁じます。