gallery2

隅田あい夏 展
- 絵画のなかにいる -

会期 : 2004年10月1日(金)〜10月27日(水)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

絵画のなかにいる


絵画作品に親密な感情がわいてきて、手元におきたいと思うことが少し増えた。毎日のように、作品に心動かされようとしている私には、うれしい徴候だ。
そのひとり隅田あい夏の作品に京都で出あった。京都芸大の大学院の修了展で、数十枚組の作品に足がとまった。
ここ2年ほどの京都芸大の絵画科で学ぶ大学院生の作品には、ふしぎなことに同門の、ゆるやかな家族のような関係際が感じられた。姉妹やいとこや異母兄弟たちのような親和性とでもいった紐帯がどこからやってきたのだろう。美術をやっていくことの寄る辺なさや葛藤や苦悩が似ているのではなく、作品の質と、平明な輝きのようなものが似ていて、気がつくと何人かの展覧会をすることになっていた。個、孤の柔らかな繭のかがやき。
隅田あい夏の作品は、32cm×41cmの小さなキャンパスが縦4段横5列に組まれたもので、「出られない男を覗く」というタイトルだ。密室を俯瞰するように描き、室内に閉じ込められた男の、そこから出ようと奮闘する様子が20コマになっている。一点一点に描かれているのは、そこで起こっている動きをあらわす波動のような線描で、画面の色はひとコマ毎に緑や青や橙や紫と色調を変化させている。当然漫画や劇画を連想したが、わきおこってきたのは絵画のよろこびだった。物語にひきこまれるたのしみ、波動の線のリズム感。
そして次にやってきたのは、スリリングな映画や小説の興奮。引き込まれていく快感があった。
隅田あい夏に会った。持参してもらったファイルにあった少し前の作品は、2、3色だけで顔や人物を描いている。ここでは色彩が影のように、水のように溜まり、隣り合った色彩の際がつくる輪郭が、情動を揺さぶってくる。天性の天然の流露、若い作家の生理と事件と感覚があふれるようにそこにあった。隅田あい夏の作品は美術や音楽や、映像や演劇やダンスや日々のできごとや恋までを絵具に溶いて、ただ喜びのようなものに向っているのだと、感じられた。
作品には複数枚を組み合わせる形式と一点の画面に、状況の変化を同在させるものもある。ドアを開ける。ドアを出る。またドアがある。ドアを担ぎあげる。ドアを掃除機で吸い取ろうとする。不条理劇のシーンの連続が、隅田の線描にかかると、かすかな滑稽味を帯びてくる。ファンタジーとSFと私小説の興奮が、いつしか見ている私の物語を誘発する。視覚がまだ見ぬシーンを次々に誘発してくる。絵画にこんなよろこび方があったのか。私は絵画のなかにいる。
隅田の展示をどうしようか、線描の組絵も見たい、大画面の不条理劇も見たい、色彩の愛憎劇も見たいと迷っている。

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

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