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風と建築 展
Wind and Architecture
解説
風土に根ざした「風のかたち」

日本はモンスーン地帯にあるため、季節ごとにさまざまな風が吹き、さらには地形も複雑であるため、地域ごとに局地的な風も吹きます。 ここでは、風との関わりが強い地域で出来上がった「風のかたち」をいくつかご紹介します。 (会場写真:INAXギャラリー大阪)

砺波平野の「屋敷林」(富山県)

砺波平野には冬の季節風が南西方向から吹きつける。さらに春になれば、平野南部に「井波風」とよばれる強烈な南風が吹く。南側の八乙女山から吹き下ろすフェーン現象の局地風だ。フェーン風は「風炎」ともいわれるように、暖かく乾燥している。長時間吹き荒れると、ちょっとした失火が大火につながる。井波風が直撃する八乙女山麓の井波町は、過去何回も町が全焼するほどの被害に見舞われた。  典型的な散村地域である砺波地方では、こうした厳しい風に対処するために、家の周囲にカイニョと呼ばれる屋敷林を巡らせるようになった。風が吹きつける西側と南側を分厚く仕立て、さらに石垣を組むこともある。遠くから眺めると緑のかたまりにしか見えないが、敷地内に一歩足を踏み入れると、樹木の種類があまりにも多いのに驚く。規模にもよるが、多い家では200本前後もの樹木が植えられている。
屋敷林は風を防ぐだけではなく、生活のあらゆる場面に深く結びついていた。樹木はまず家の建築用材になり、小枝や落ち葉は燃料や冬の暖房になった。木質の堅いカシは農具や大工道具に、カキ・クリ・ウメなどの果樹はおやつや保存食料になった。竹は、タケノコを食料とし、生垣・竹ぼうき・ざる・しゃもじなど日用品をつくる材料に。日陰に生えるドクダミ・ゲンノショウコなどは薬草として利用し、フキ・セリなどの山菜は四季の食卓を彩った。屋敷林は自給自足の生活サイクルを支えるものでもあったのだ。 厳しい風土に生きた人々の知恵が凝集された屋敷林だが、その数は年々減ってきている。
砺波
会場写真

屋敷林
富山県砺波平野「屋敷林」撮影 : 西山芳一

窓のない家
石川県富来町「窓のない家」
撮影 : 西山芳一
富来
会場写真

富来の「窓のない家」(石川県)

日本海に突き出した能登半島は、冬の季節風の影響をまともに受ける。なかでも北西からの強風にさらされるのが、外浦と呼ばれる半島西海岸の地域だ。半島付け根の羽咋(はくい)から、海岸線に沿って北上していくと、漁港の点在する富来(とぎ)町に入る。海岸美で知られるこのあたりは、海岸線すれすれに道路が走り、片側に小高い丘陵が迫る。この辺りの集落では、どの家も海に面した側に開口部がいっさい設けられていない。

下見板張りの壁が、まるで盾を並べたように整然と続いていて、特異な景観を醸し出している。しかも道路をはさんで海側と山側とで、家のつくりが異なっている。海側に立つ家は、海に面して蔵や倉庫を設け、それを風除けにして隠れるように母屋を配している。もちろん蔵や倉庫にも開口部はない。いっぽう、山側に立つ家は、道路に面したほうから風が吹きつけるので、道路側に窓というものがない。

海岸線間際に密集する集落なので、防風林や屋敷林をつくるスペースがなく、つくっても樹木が育たないのだろう。そこで、家の風上側を完全に閉じることで、風を防いでいるのだ。

下見板張りに使用している木材は地元でアテといわれている。能登ヒバともよばれるアスナロの一種で、堅くて耐久力があり、油分が多いので防水効果がある。そのために塗料はいっさい塗らず、無垢のまま使用する。岩場に押し寄せる怒濤から真っ白な泡が生まれ、強風に乗って飛び乱れる「波の花」と厳しい冬の風によって地元の材であるアテを銀灰色に染めていく。厳しい自然が与えた建築の美ともいえるだろう。


上大沢・大沢の「間垣」(石川県)

地域ごとに風除けの工夫はさまざまだが、原初的ともいえる素朴な佇まいを見せるのが、能登半島の北西端にある大沢町と上大沢町の「間(ま)垣(がき)」だろう。細い竹を束ねた高さ5mほどの垣で集落を囲んだ、半永久的な風除けだ。竹の城砦ともいえるが、威圧感がなく、自然に溶け込んだやさしい印象を与える。風が吹くと竹の小枝が揺れ、かすかに隙間もあるつくりだが、これは風を完璧に遮断するのではなく、少し通しつつ、全体として風の力を弱める働きがある。風に対峙するのではなく、やんわりと受け入れる。自然に逆らわないで生きる知恵だ。
 11月下旬からこの一帯には「鰤(ぶり)起こし」とよばれる北西季節風が大きな雷鳴とともに吹き荒れる。凄まじい唸りをあげて竹垣に吹きつけ、虎落(もがり)笛(ぶえ)と呼ばれる笛のような音を響かせる。慣れている土地の人にとっても不気味な音で、間垣はこうした風の唸りを弱める防音の役目も果たしているのだ。
 また乾燥した竹の間垣は、水分をたっぷり含んだ海風の湿気を吸収してくれ、夏の夕刻に照りつける厳しい西日を遮ってもくれる。いっぽう間垣の難点は、火事に弱いということ。乾燥した竹にいったん火がつくと、またたくまに燃え広がる。そのため防火については異常なまでに気を遣ってきた。長所と短所をふくめ連綿と続いてきたこの地での暮らしの知恵が、この間垣にしっかりと受け継がれている。
間垣
間垣 撮影 : 西山芳一

間垣
間垣 撮影 : 西山芳一

間垣
会場写真


風の小窓

高温多湿な日本のすまいには、風通しをよくする換気口が欠かせません。 とくに重要なのが屋根裏と床下です。この小さな換気口にはさまざまな意匠が凝らされています。
■屋根裏の換気口
間垣
上段左から宮城県湧谷町、兵庫県神戸市、青森県板柳町、中段左から奈良県大宇陀町、茨城県八郷町、奈良県大宇陀町、下段左から京都府美山町、香川県大川町、秋田県秋田市

■床下の換気口
間垣
奈良県橿原市今井町 撮影 : 西山芳一


自然の風を活かした現代の建築
夏も冬も3段の引違い窓で風を呼び込む

屋根越しに見える隣家の窓にならって考えられた特徴的な開口部は、伝統木構造の貫材を敷居鴨居とした3段窓である。天井から床まで全面の木の引違い窓は、日々刻々の暮らしの中で細やかに風を調節することができる。この家では、すべて湿気や熱を出し入れし、暑くても蒸さない寒くても冷えない材料を用いている。このように重厚な自然素材に包まれているからこそ、夏の風通しはもちろん冬の風通しとしての隙間風も受け入れることができる。
■市居博(建築家)自邸「シーダ・バーン」 
設計:市居博、1998年竣工
間垣
会場写真


呼吸する建築
ポーラス型集合住宅の提案

この提案のテーマは「ポーラス・エアラッピング」である。ポーラスとは多孔質を意味し、穴をたくさん開け、風をうまく流れるようにしている。海中に棲むサンゴや海綿は密集していて水をよく通す。それと同じように空気をよく通し、空気で包まれた建物にするために、スポンジのように中空部分を多く設けて、外気が建物内をよく通るように工夫している。
これは日本学術振興会が行ったプロジェクトで、計画・構造・環境の専門家が集まり、高密度居住都市で環境に負荷を与えず、高温多湿気候に適応する住宅のプロトタイプをつくるというもの。2001年度の日本建築学会設計競技で最優秀賞を受賞。


プロジェクトリーダー:村上周三(慶応義塾大学)
プロジェクトリーダー:加藤信介(東京大学 生産技術研究所)
デザイン:クトリーダー小嶋一浩(代表者+プロジェクトチーム)

間垣
「ポーラス型集合住宅・東京モデルの模型」(会場写真)
デザイン:小嶋一浩(代表者+プロジェクトチーム)、所蔵:東京大学 生産技術研究所、協力:株式会社竹中工務店


関連リンク
象設計集団
http://www.zoz.co.jp
会場で展示している「多治見中学校」を紹介。

シーラカンスアンドアソシエイツ
http://www.c-and-a.co.jp



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