gallery2

古郡弘 展
- 森の魂塊 -

会期 : 2005年1月6日(木)〜1月27日(木)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

大地の魂塊


同世代の古郡の作品を、長いあいだきちんと見ていなかった。彼の作品の記憶がおぼろになっていた頃、とつぜん越後妻有エリアの十日町市下条地区の棚田に、古郡の泥の砦があらわれた。2003年の真夏、遠目に見えたときから、魂をわしづかみされたように引き寄せられて、泥の囲いのうちそとでふるえた。

山野の棚田に、木々の枝葉をのせた砦のような泥の囲いが、何層にもくねるように立っている。それは構築物でもなく、作品でもなく、塀でも、囲いでもなく、大地の、森の魂塊のようなものだった。


「大地の芸術祭・越後妻有トリエンナーレ」は、私にとって事件だった。それまでもいくつかのビエンナーレやトリエンナーレ形式の芸術祭を体験していたが、これまで行われた芸術祭と、この芸術祭は何もかも違っていた。なぜ違うのか。場所が過疎の豪雪地帯の山野だったからか。きっとそれもある。だがそれだけではない。

2000年と2003年、都合5回、延べ10日の滞在だったが、土地の人々が作品を得たことを全身で喜び、作品を、作家をまるごと受けとめていることが驚異だった。

2003年は、宿のおばさんも、飲み屋のおじさんも、みんなが、あの作品が、この作品がと語り合っているのだ。まるで地区ごとに新調した神輿の出来栄えを自慢するように、語っていた。

2003年の古郡弘の作品は「盆景−」というものだった。盆景とは小さなものの意、掌の宇宙ではないかと思ったが、広大な宇宙から眺めれば盆景なのかも知れない。まるで啓示をうけたように、千年以上耕してきた田んぼの土を、掘り起こし立てた。眼前に現れて、土が泥がどれほどのものだったかを知った。藁を切り混ぜた泥を積んだものが、なぜ私をこれほどゆさぶるのか。

この作品は、土地の老若男女延べ600人が1ヶ月半をかけてつくりあげたものであると聞いた。古郡は恩寵のように、土地の人々とともにつくりあげる機会を得た。土地の人々、関わった人すべて、訪れた私たちにまで恩寵がやってきた。

汗をぬぐい、何百キロもクルマを走らせてさまざまな作品に出会った。しかしいたるところに咲く花々や木々や森に、急峻な棚田に、雪の重みで根が曲がっているブナ林にも、ひっそりとした集落の佇まいにも出会った。「この田んぼや稲や木々や花々と、作品と呼ばれるものがどう違うというのだ。」という思念が湧き出てやまない。芸術というものが、やまない思念を湧かせ、身体にふるえを起こすものだった。

古郡は長い間、これらの作品の萌芽とも思える作品を作り続けてきた。しかし、それは古郡という作家ひとりの作品だった。大地そのものと人々とともにつくりあげる時間が、古郡と作品と芸術の領界と量塊を変えた。


いま、その妻有エリアが地震にみまわれている。あの山野が里山が動いた。私には、「ここに私たちがいる」という合図のようにも思えた。必ず復興する。あそこの大地と人々はつよく、ゆるぎなく、血脈に大地のDNAを宿していると思われるからだ。

古郡の作品が新年の祈りだ。都会の中空に浮ぶ作品は、大地のそこかしこへと私たちを導く道しるべのようにあらわれる。

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

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INAXギャラリー2 2005年の展覧会


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