先月に引き続き、福岡の書店をご紹介します。
福岡最大の繁華街天神地区にジュンク堂書店福岡店が出店したのは、今から5年前の2001年11月。 1-4Fで合計1600坪と地区最大を誇ります。総面積は池袋本店に及びませんが、ワンフロアとしてはこちらもグループ内最大級です。

関西を中心に展開しているジュンク堂書店ですが、九州はそれまで鹿児島や大分に2店舗のみ、福岡へは念願の出店で、当時は「天神戦争」などと言われました。 市外のお客様には今でも「ジュンクって何処にあるの？」と訊かれる事があるようですが、後発わずか数年で天神地区一番店となっています。 昨秋に新宿店を取材した際、話をいろいろと話をうかがった土井さんが立ち上げに深く関わった店でもあり、私共としても念願の取材でした。

こちらの店の強みは、天神コアビルの裏、メインストリート渡辺通りの1本東側という立地の良さですが、なんといっても在庫120万冊という膨大な品揃えでしょう。 「此処に来れば探している本に出会えるだろう＝此処に無ければ他の店には無いのではないか」と訪れた人に思わせてしまうボリュームがあります。

INAX出版のほぼ全点の書籍が置かれているのは3Fで、建築書コーナーはエスカレータを昇ってすぐ右という立地の良さです。 福岡を中心に活躍されている建築家の方も常連さんというこちらのコーナーで、最近よく売れた商品を教えてもらいました。
取材時は2月で、この時期は図書館や大学の"まとめ買い"が多いそうですが、いろいろと挙がった書籍の中で目を引いたのが『学生デザインビュー2005/福岡』。 九州の建築系学生のいわゆる"卒制本"です。 最近は仙台などでも似たようなイベントが開催されていますが、この本は日本建築家協会九州支部が主催、伊東豊雄氏など有名な建築家を迎えて毎年開催されている、地元の建築系学生にとってビックなイベントだそうです。 店に置くようになったきっかけは、昨年に「同2004/熊本版」が出た際に受けた学生さんからの問合せ。 その前号の『2003年版』は通常の取次ルートで入荷したそうですが、以降は何故か直ルートになった品で、都内でもあまり見かけないものでした。

他ではなかなか手に入らない希少本や、珍しい商品を、医学とコンピュータを除く理工書(建築・生物・農業・機械など)をカバーするフロア担当の福田さんに教えてもらいました。
先ず建築書では、棚から大きく飛び出した『パラディオ図面集』(10万5000円！)、中央公論美術出版『イングランド住宅史』、『教会建築論叢』、『ヴェネツィアの石』などです。 雑誌も豊富で、「『新建築』の70年代モノ増刊号を置いているのは一帯ではおそらく当店くらい」と胸を張ります。

問屋（取次）を通さない直接取引の担当でもある福田氏は、一般流通している書籍以外の商品も手広く仕入れています。 例えば、上野と北九州の国立博物館で開催していた恐竜博の図録。 白眉はサントリー美術館から仕入れている『JEAN NOUVEL (ジャン・ヌーベル)』。 専門書に定評のあるこちらの書店を見込まれてお取引が始まったものです。 建築書以外にも『カブト王VSクワガタ王-誇り高き戦士たち』など、昆虫同士のバトルに、有名作家が解説を付けたDVDもズラリ。 仕事を忘れてつい見入ってしまいましたが、当社で出したばかりの「小さな骨のポストカード」の企画書をご案内したところ、後日に納品が決定しました。
取次を通さない直取は、問合せ先から始まって入手ルートを見つけるまでが大変です。 が、福田氏はあまり苦ではないようです。休日は展覧会などに足を運び、コレと思う本や雑貨に目星をつけるそうです。 昆虫DVDの仕入れたのも、TV番組「トリビアの泉」を見ていて、関連品が紹介されたのがきっかけでした。

さて、店は典型的な土日集客型だそうです。 私共の勝手な創造とは違い「新刊売りタイプ」の書店ではなく、既刊売りがメインとのこと。 建築書も読み物よりは実務書が中心で、取材中も数回、問合せが入っていました。 「手堅く実務書を買っていただきつつ、(INAX出版が出しているような)読み物も手にとっていただければ、というのが福田氏の狙いです。
他店には置いていないものを置くだけでなく、目につきやすい"仕掛け"も必要です。 最近では、小学生向けの数学の本を「これは大人でもイケる」と見込み、思い切って1Fで展開し、多くの方々にお買い上げいただいた時の喜びは格別だったとか。 各店舗では、どの店のどのフロアで何が売れているかなどの情報交換に力を入れていて、手書きのFAXがよく流れてくるので、それも参考にしています。
とはいえ"ブーム"は何の前触れもなくやってくるものです。 昨年の福岡店では「いきなり蛙の波(=蛙の本ブーム)がきた」そうです。 今でも原因が判らないのだそうですが、「でも同じ時期に池袋本店ではちゃんと蛙フェアを仕掛けていて、凄い売れ行きだった」と悔しそうな福田氏でした。

取材中にふと、福田氏が書店員になった理由が知りたくなり、キッカケを訊くと、戸惑いながらも「此処でこの本に出遭ったからです」とある棚に案内されました。 不信心な私などは滅多に寄り付かない宗教書のコーナーで、ジュンク堂特有の背の高い棚に、『大蔵経』と背に書かれたカバー付きの本が上から下までビッシリ。 聞けば、福田氏は大学は美術専攻で、教授に『大蔵経』を探してこいと言われ、辿り着いたのがこの店だったのだそうです。 「この本をこんなに揃えている店は他にない」とホレ込み、現在に到ったのだそうです。 このエピソードだけでも、こちらの店の厚い品揃えの一端が伺えるかと思います。

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