INAX GALLERY 2

2000年5月のINAXギャラリ−2 Art&News
Aeneas Wilder 展
−立体ドミノ 破壊と再生のかたち −

会期:2000年5月1日(月)〜5月29日(月)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



哄笑の立体ドミノ

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

アニアス・ワイルダー(Aeneas Wilder)はスコットランドの出身だという。日本人の作家が同行してプレゼンテーションにやってきた。彼の作品はヴィデオで見るほうが早いということになり、セットした。砂の嵐のようなフィルム。日本での受像変換が済んでいない映像。白い筋が絶え間なく重なるフィルムから現われたものに、粟立った。

木片を積み重ねて、鉢や壷を伏せたようなかたち、山やテントやさまざまなドーム型を画廊に組み立てる。箱型の立体をくの字に積み重ねた立体や、蹄鉄型の入り組んだ立体もある。近作はハニカム状に中が幾何学の分割をもつ作品や、星型の外形をもつものなど複雑になってきた。
40×2.4×3cmの小さな木片、主にハンの木だという。榛の木ALDER。(カバノキ科の落葉高木。2、3月頃紫褐色の花が咲く。材は建築・器具・薪炭用。樹皮と果実は染料)ぶつかり合うとカーンと音がする硬い木。
作品の成り立ちはきわめてシンプルで、木片を等間隔に並べ積み上げる。1・0・1・0のようにまず1本を置き、等間隔をあけて次ぎの1本を置く。2段目からは、0・1・0・1の逆に積む。いわば、木片と隙間の市松のかたちを、横にも縦にものばしていく。
ブレたフィルムの中から圧倒的なオリジナリティが伝わってきた。哄笑とともに。


作品 作品 作品
画像はINAXアート&ニュースからの転載(1999年の作品)です
フィルムには2mあまりの高さに積み上げられたかたちが、作家自身の足の蹴りで、一瞬にして崩落するシーンがかたちごとに沢山おさめられていた。掛け声をかけて数人が作品をとりかこんで「スリー、ツー、ワン」と蹴るものもある。画面にはあらわれてこない観衆が、彼の透明で、精緻な、長時間をかけて積みあげられた作品を崩落させる瞬間に、誰もが腹の底から笑う。塔が木片の塊に変わる瞬間の悲鳴のような哄笑は、カタストロフィからの再生の雄たけびのようだ。作品が混沌の豊饒に変容する。
作品はとてもきれいだ。木片による立体は、網目のように、格子のように積まれて、どんなかたちでも柔らかい。粒のような、小さい単位で構成されたかたちに一瞬強い力がかかると、ある法則の崩落形を描く。きれいだ。円錐のかたちのものが崩落すると、ドーナツ状に中心が透けたかたちに静まる。スローモーションの技法を使っていないのに、立体ドミノ倒しのように放物線の時間とかたちを見せて落下するものや、サーフィンの大波のようなウエーブを描いて落下するものもある。
作家は激しいダンスの終わりのステップのように作品を横に蹴る。蹴った瞬間に、崩落の木片を浴びないように身をよじって立つ。
一つの作品は2〜3日をかけて、積まれたかたちとなり、一瞬の蹴りで、落下したかたちとなる。どちらが彼のかたちかと考えることをも笑いとばす。もったいないと思う感情、膨大な時間を失うという悲痛、約束された作品が約束されたようにあるのが展覧会だということさえ無化する。見るという行為、見たという事実すら無化される。

アニアス・ワイルダー、スコットランドという風土があなたを生んだのか。 無限のかたちをつくる力をもち、かたちを透明にする力をもち、破壊する力と、再生する力をもったアニアス・ワイルダーの時間がはじまる。
私もはじめて木片に触れる。




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2000年の展覧会



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