INAX GALLERY 2

2000年6月のINAXギャラリ−2 Art&News
八木 明 展
−青白と漆黒、天をさし弧をえがくうつわ。 −

会期:2000年6月1日(木)〜6月28日(水)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



うつわという意志

入澤ユカ
(INAX文化推進部チーフディレクター)

今回の八木明の展覧会は、うつわと呼ばれる一群の作品によって空間構成される。青白磁や漆黒釉がかかった同形異サイズのうつわを、弧を描くように、あるいは高みに重ねてゆくかたち。 現代美術の表現を企画し続けているINAXギャラリー2においては、実験的な試みのように感じられると思うが、作品を見続けてきて一人の作家の磁土や石や木片で構成された造形作品と、球体や杯のかたちは八木明の表現として分かちがたく、無意識にオブジェとよんでしまい、何気なくうつわと呼び習わしてしまう私たちの感覚をリセットする試みをしたい、その思いをかなえた。

八木明の青白磁や漆黒のうつわは、うつわといっても、球体形の蓋ものが直径3mmから始まる18組の入れ子になっていたり、杯が尖塔のように円錐状に数十個近く積み上げられている。

かつて私はこう書いたことがある。「八木明の作品は、凶器という器だ。そして狂気という毒をもっている。かたちのどこかに、必ず鋭利なあいくちを隠している。真円のような球体にすら、鋭利さを感じる」と。その印象はいささかも変わっていない。球体や杯という幾何形の構成は張りつめて美しく、凶器と呼びたくなる激しさを呑んで佇む。香炉や香合とよばれるものも、腰をひねってポーズをきめたり、膨らんだスカートを身にまとったダンサーのように立つ。不思議な道具、なぞめいた道具のようなかたち。

うつわと呼ばれるものにも示す八木明の抽象のちからがどこからうまてれきたのか。彼は陶芸の世界で初めてオブジェという概念でやきものをつくった「走泥社」を主宰した八木一夫の長男であり、母は造形家の高木敏子、弟は26歳という若さで夭折した彫刻家の八木正だ。

INAXギャラリー2にとっての最初は17年前の正の遺作展だった。板による構成によって、端正で、清らかな展覧会になった。作品にであって展覧会をしたいと思ったときが、白血病で急死した1ヶ月後のことで、その記憶はいまだに強く残ってる。その3年後には、母敏子のおおらかで色彩の深く鮮やかな染織による立体を会場いっぱいに吊りさげたりした個展をした。ものをつくる家族の修羅を思い続けて明につながったともいえるが、造形作品とうつわを同時に展示していた1997年の東京国立近代美術館工芸館での展覧会で衝撃をうけた。えにしというしかない。

そして今年4月愛知県常滑市の「 INAX世界のタイル博物館 」の企画展示室での「やきもの新感覚シリーズ」の10人目の作家に私は八木の漆色の磁土と石と木片の造形作品を招請した。この企画のとき天啓のようにひらめいた。このままでいけば、彼のうつわ群の作品は、陶芸ギャラリーでしかめぐりあえない。2001年になり世紀がかわっても現代美術の画廊ではうつわに見える作品は展観されないだろうと思った。あらゆる表現を「現代美術」ではなく「現代の美術」と捉え直したい。たった一文字「の」を入れたら霧が晴れるように、多くの表現が深く感じられるようになった。

低く置かれた大きな鉄板を舞台のように見立て、まるで歌舞伎やオペラの群集シーンを一時停止させたように、作品を群像として配置する。青白と漆黒のかたちは、かつて見せたことがない表情になって登場するはずだ。




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2000年の展覧会



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