INAX GALLERY 2

2000年10月のINAXギャラリ−2 Art&News
河合晋平 展
− 発生絵画 −

会期:2000年10月2日(月)〜10月28日(土)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



発生絵画

入澤ユカ
(INAX文化推進部チーフディレクター)

孔雀の羽根の青緑色に輝く年輪模様を連想させる一面のモチーフ。年輪模様がたった一つの場合もある。 「レイヤロジール」と命名されたある一群の作品は、電子顕微鏡によって焦点を定められ、ようやく明らかになったもののように見えた。精緻な写真作品。いやこれは河合晋平の半立体作品。 河合は、有機物、無機物を含めたすべての存在をあらためて「存在物」と名づけて自らのモチーフとし、一方素材としてマチエールを種に分類し、作品の完成を出現という概念でとらえた絵画を編み出した。 私たち人類は、肉眼では見えない多くのものに囲まれながら、それを見ることができない歴史を何千年も送ってきたのに、ここにきて天体や宇宙や細菌のような微細極小なものまでを見ることができるようになった。
ほこりや食べ滓のようなものでも、想像できない色とかたちで蠢いていることを知った小学校の理科室での顕微鏡体験。物質は固有の図像をもっていることを知り、美しさや不思議さが無限大にと言いたいほど拡張した。まだ見ぬもの、あるいは普通なら見えないものは、長いあいだ想像力というものの中にあったはずなのに、望遠鏡や顕微鏡、ある種の薬草や錠剤、あるいは幻覚、物質の分離や培養によって、世界という二文字の中で億千万の何兆倍もの図像が蠢くこととなった。世界とは、あらゆるものの無限多面体の万華鏡のなかの終わりのない蠢き。
長い間モチーフとは、とらえるものとして、作り出したいと願う人の進む先にあったのに、いまやあらゆる物質に隠されている膨大な蠢きを想像するだけで無力感におそわれ、描くという行為は頭を抱えてしまった、気がする。
だが河合晋平はマチエールを姿として見た。マチエールを「存在物」として定義し、描くのではなく生むという概念を得た。マチエールには油絵の具や樹脂も多用されるが、綿棒のときもある。あの白い頭の綿棒が無数に置かれると、産卵されたばかりの卵が岩肌で浮遊しているような作品として、それは「ウォーブネーム」という名の種になる。またある時は、強い粘りを出した油絵の具を注射器の針先から刺すように絞り出し、運筆の「跳ね」にして密集させたり、しっぽのある精子のかたちに生み出し、それは「ペトロ」種に属することになる。彼自身のことばによれば「存在物とは、河合晋平の芸術作品の中に現われ自己主張する素材(マチエール)の姿である。存在物たちは、制作過程において互いに影響し合い、発表行為という環境に適応することで進化し続けている」と。
素材の姿を生む母体としての作家という在り方に気が付いた河合晋平の作品のもう一つの特徴は、この命名が友人によっておこなわれていることだ。他者という存在と一体の芸術行為。しかし、と私はひそかに思う。友人とは、母体である河合が母であるなら父という存在なのではないか。父の命名するという行為なしには成立しない表現形式をとることによって、創造が一人の営為から生殖行為のようになる。だから増殖し、成長し、衰退し、死滅する永遠性を獲得する。
どんなイリュージョン・ショーよりも神秘的な、万物の蠢くかたちの前で立ちすくんでしまっていた表現の未来に、河合晋平は新たな道を開く。バターロールのパンは、「オルブテルアール」という種に分類されているが、綿棒もパンも画廊に出現して別の種として脚光を浴びるとは思っていなかったに違いない。そうした明るさと、生む力の強さと豊饒さが漲った展覧会になる。



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