INAX GALLERY 2

2000年12月のINAXギャラリ−2 Art&News
西野康造 展
− 裸の彫刻・消える彫刻 −

会期:2000年12月1日(金)〜12月22日(金)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



彫刻が奏でる音

入澤ユカ
(INAX文化推進部チーフディレクター)

2000年の最後は西野康造の展覧会になった。夏の終わり頃から各所の企画に「20世紀最後の…」と前置きがつくようになってきた。それらをよそごとと思いながらも、 どこかに20世紀最後の展覧会は誰の作品になるのだろうか…などと考えている自分がいた。
西野康造の作品は消えていく彫刻だ。見つめた後に振りかえると消えてしまっているような彫刻。 実像を見たはずなのに、記憶にはそのときの風や音や風景ばかりが残っている。 そのせいで西野の作品は彫刻であるとさえ言えない気持にもなっていく。
立体なのに作品の主題は透明さ、空なるものへの希求のようだ。 見えない彫刻、消えてゆく彫刻、軽い彫刻、はにかみながら、消え入りたいような彫刻。 彫刻にはなりたくないといっている彫刻。 モチーフも表現も二律背反や矛盾を、隠したりあらわしたりするように、飛行機のような鳥が舞い、弧をえがく円形の鳴らないピアノがゆらゆらと、そしてブーメランが風をきって飛んでふわりと着地した橋が伸びている。
西野があらわしたいのは、決してつかまえられないもの、名づけられないもののようだ。意識と無意識のあわい地点へ向かっていく。あこがれの時空、遠いダ・ヴィンチやライト兄弟の空をめざして飛んでいく作品。 きっと科学好きで空想好きの機械少年だったに違いない西野は、いまライト兄弟の飛行の軌跡とダ・ヴィンチの未来世界のデッサンを鉄やチタンやステンレスの線で空に描いている。

西野康造の作品はひそやかである。空間にあってもまるで裸の王様のように、そのかたちを見ることができる人と、見えない人がいるような気がする。 大きなスケールの作品でも常にしなやかなのは、ディテールに透明な気配と記憶をとぎすますように注入しているからだ。 鉄、ステンレス、チタン合金、木片、石 いわば彫刻家が用いる素材のほとんどを手に、一片の素材との交歓の深さをはかりながら作品はていねいにつくられていく。 作品タイトルに「宙」や「時空」「記憶」「気流」や「風」や「蝕」という文字があらわれてくることからも、伝えたいことは自然というとてつもなく大きな事象や概念で、誰も手中にできない。 彼の素材とフォルムは、空間への旅の、切符のように思えてくる。 ステンレス片や鉄やチタン片の切符を握りしめて、かたちから起こる渦に引き込まれて、気がつくと天空飛行のさなかのような浮遊感覚に身をゆだねている。 作品が風をおこし、渦をつくり、うねりをつくる。鳥が翼をひろげ、透けた羽根に光がきらめき、羽音をたて、橋が揺れ、風力計やピアノも震えている。 永遠と一瞬の間を巡りつづける作品からは、見えないエナジーが発散されてくる。
「ブレス・オブ・スペース」というグランドピアノの響板のようなかたちが大きな弧に連なった作品は、ピアノというイメージを示すことで、そこに無数の音楽がわきおこってくるような感覚をひきおこしている。 西野には楽器をモチーフにした作品も多く、透明な線で編んだような透けたホルンや、テーブルや椅子の側におかれたバイオリンもある。彫刻で音を奏でようとする、あまのじゃくで、粋でいたずら小僧のような西野康造の作品で、2000年のINAXギャラリーは終礼の音楽を奏でる。



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