2001年3月のINAXギャラリ−2 Art&News
三人の絵師たちの天空からの眺め 展
Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。
三人の絵師
入澤ユカ INAXギャラリー1の企画「鳥瞰図絵師の眼―Bird's−eye Dream―」開催の進行過程で、現代にも鳥瞰図を描きつづけている作家がいることを知った。 鳥瞰図も絵地図もほとんど折りたたまれた状態で、専門店や大型書店の一隅で売られているものだから、多くの人に知られる機会がない。 必要な人だけが探し出すものだったが、出会ってみれば、実用の絵画、記録と記憶の絵画として、大いに楽しめることを発見した。 |
石原正はグラフィックデザイナーからの転身だという。 ドイツの建築家で、第二次世界大戦で破壊された故郷の復興を5年ごとに記録していったヘルマン・ボルマンの作品に魅せられて、鳥瞰図は独学だという。 すでに30年のキャリアがある。 正確に描こうとする意志と技量は桁はずれだ。 だが鳥瞰図の正確さとは、実は正確とは対極にある図にすることだ。 石原のニューヨーク・マンハッタンの鳥瞰図は私も知っていたが、石原の作品だったとは知らなかった。今頃になって鳥瞰図や絵地図にも固有の作者がいることに思い至った。 鳥瞰図や絵地図とは、既にあるもの、普遍であるように思ってしまうもののようだった。 それにしても自前でヘリコプターを何十回も雇い、通りをなめるように見て尽くし、窓の数まで正確に描こうとするエネルギーはなにゆえなのか。 現代では数日でビルが消え、新しいビルが建つ。 ある年号のある日の街をとどめるために、狂気にも似たエネルギーを噴出させてしまう、描くという行為のはかりしれなさに驚嘆するしかない。 |
村松昭の散策絵図は、女にも読めたという気にさせる地図だ。雑誌的であり、テレビ的である。
水彩で描かれた写実の山や川に、とつぜん動物や鳥や花々が縮尺の枠からはみ出て描かれる。
民話の天狗や祭りの様子が描かれる。土地にまつわる記憶や伝説までを一本の紀行もののフィルムのように編集する。
絵図とはなんと重層的に情報と情景をすべりこませていける形式なのだろう。
「川シリーズ」には掛け軸のように上から下に垂直方向で描かれる「散策絵図」と、経本のように畳まれていて、右から左へと開いていく水平方向の「散策絵巻」がある。 この使いわけが面白い。 川絵図を開くと、山の頂きから流れ出て、河口に向かう水を追いかけるように眺めていることに気がつく。 とともに、まるで下山するときの下降感覚もやってくる。一枚の絵図は身体感覚を揺さぶる。 絵図による悦楽の時間が流れていく。 |
友利宇景の作品は鳥瞰図というより、宇宙船瞰図と呼ぶほうがいいのかもしれない。 いや怪鳥瞰図だ。怪鳥が、普通の鳥には飛べない高さやスピードで飛翔しない限り写しとれない角度とスケールで、大陸間の光景やアマゾン川や海水を抜いた状態の海溝を描く。 宇宙船からの映像よりももっと想像をこえるのに奇妙なリアリティを感じるのは、もしかして私の頭にある地球の姿も、友利などの描いたイラストレーションによって定着してしまっていたためなのではないのか。 彼は主に雑誌「ニュートン」や百科事典に掲載されるパノラマ図を描いているからだ。 友利の作品を怪鳥瞰図といったが、神瞰図ともいえる。 宇宙の創造神として絵筆から大陸を隆起させ、巨大湖を堀り、海溝を見せるために海水を抜く。 鳥瞰図絵師とはなんとも壮大で、面妖な存在なのだろう。 |
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