会期:2001年4月2日(月)〜4月25日(水)
休館日:日曜・祝日
Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。
混合界曼荼羅
入澤ユカ ニンゲンとは新しいカメラをもった時と、最初の海外旅行の時は、何でもかんでも撮ってしまう動物なのだ。カメラをもった途端に、目は探す機能を自動的に付与される。もってない時というのは、目はシャッターが閉じた状態なので、あいているのに見ていない。カメラが大量に出回ったときから、目は見ない装置となってしまった。カメラの発明の瞬間には、記録菌というウイルスも発生した。顔の真ん中あたりにある二つの目は、カメラという三つめの目をもった時だけ、ようやく開く装置になった。そのうえ近年の誰でも撮れるカメラには、開封時だけに「撮ってくれフェロモン」を一斉放出するように設計されているらしい。そうじゃないと新品カメラをもった時の、自動シャッター押し人形状態になってしまう自分やまわりの多くのニンゲンの狂態が理解できない。 今井はふしぎなカメラにあたった。彼のカメラは特別で、どうやらいつまでも「撮ってくれフェロモン」が出つづけているようだった。普通の人はすぐ飽きるのに、彼はいろんな所へ行って、万物を膨大に撮っても飽きない。そこである日プリントでコラージュしてみた。万華鏡のようになった。そのうちにすごく気にいった部分だけを沢山プリントして繋げてみたいと思った。同じものを反復するといろんなものに見えることもわかった。カヌーに乗っていた自分。花畑を撮っていた自分。岩肌がきれいだった。特に僕はモーリシャス諸島が気に入っている。南インドでは野犬の声も聞いた。そうつぶやきながら、大好きなものをつくってみようと思った。「モーリシャスのドードー鳥」「アスファルトの恐竜」「森あおガエル」というのが今井のタイトルの一部だ。日々の記録と旅の思い出と絶滅種、直球だけの少年投手のようだ。タイトルの文字数が1000字近くもあるから文化祭になるのよ、と思っていたのだが、誰でも撮れるカメラで、その断片をパズルのようにはめ込んでいく今井の作品を見ているうちに、確実にわたしたちに侵入してきた記録菌とは別種の菌による表現がここにはあると実感するようになった。 たちこめる大気はかつてと違う粒子の層をつくっている。その光線によってかたちをあらわしてくる図像も、少し前とは違う混合をしている。混合界曼荼羅と名づけたいような今井のかたちには、見ることとと、少しだけ祈ることを混合して向き合うのがいいのかもしれない。 |
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