INAX GALLERY 2

2001年7月のINAXギャラリ−2 Art&News
大平實 展
− ミックスド・エナジー −

会期:2001年7月2日(月)〜28日(土)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



勁くしなやかなかたち

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

大平の作品から受ける、私たちの国から生まれた美だ、という感覚の由来を考えた。樹皮を細かく裂いてはりつけていくニュアンスや、漆に似た艶やかさに磨きあげていく行為などが伝えてくる、知っているからいとおしく、しかし今という時代の感覚をまとったものがここにあるという思いだった。

彼の作品のフォルムには原初的な道具類を想起させるものなどがあって、これらは日本的であると同時に世界のあらゆる場所で生まれてきたものにも似ていて、それらへの見立てという行為と抽象化の道筋も感じられたが、あらわれているものは悠然としていた。
作品は、はかなげな素材に時間をそそいでしなやかにしてきた、日本流をもその根底に秘めている。しかし古さや新しさ、日本的や西欧的、アジア的などということばのようなものを無化してしまう、たくらみと葛藤の激しさも隠されているように思った。

大平實は新潟に生まれ、金沢では美術工芸大学で学んだ。その後東京芸大で大学院を修了し、やがてメキシコ国立美術学校でも学んでいる。今年ちょうど50歳になる大平の、金沢から、東京、メキシコと続く長い学びと、現在はロサンジェルスで制作を続けている経歴を想像すると、生まれた土地から離れたからこそ、素材の扱いにあたかも日本的と称される方法を選べたのではないか。この国の、目新しそうでわかりやすそうなものを一時的に取り上げて、あっという間に消費し尽くして去る「いなごの大群現象」のような無残な文化風土をやり過ごすには、国を離れ、無言で普通に作品を作りつづける以外にはない、と思ってきたのではないだろうか。一時的に喧伝されることをひっそりとやり過ごして制作しつづけるには、膂力がいる。それも今という時代に生きる作家という存在の課題かもしれない。

大平が好んで用いる素材に、樹皮や小枝や植物の繊維、スレート石片などがある。スレートがはられた立体作品のムーブメントと石の組み方に強く惹かれた。ときには廃材を再生する。はかない素材片で作品を構成しながら、あらわれたものがしなやかで強靭な風貌をしている。実際は編んでいる作品は少ないのだが、大平からはいつもさまざまな物質を編んでいるという印象を受ける。編むとは発見や拾うこと、際立たせることぜんぶが層になって絡まっているということだ。一見漆のように磨いたものや、桧皮片のような木の使い方は日本という国への連想につながるが、世界には似た素材感でものをつくってきた民族が多くいて、彼らのつくりだすものへの共感も伝わってくる。しかしひきしまった、おおらかな線や塊は大平固有のものだ。ロサンジェルスの乾いた風にさらされた小さな素材片が、ゆっくりとしたかたちになってエナジーを発してくる。はかなげなもののエナジーがあつまって、勁くしなやかなかたちがここにある。




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