gallery2

2002年11月のINAXギャラリ−2 Art&News
金正逸 (Kim jungil)
― かなたへと向かっていくかたち ―

会期 : 2002年11月1日(金)〜27日(水)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



かなたへと向かっていくかたち

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

肉体の動きが技のように見えるのは、ほんとうはとても人工的なことだ。ふつうに歩いたり、走ったり手を大きくのばしたりしても、その動きに視線はとまらない。
金正逸の制作過程を知って、彫る、削る、叩く、切るなどの技が残ったものが、作品におけるマチエールと呼ばれるものでもあったことに、あらためて気がついた。 彼は、新体操のリボン競技のようにワイヤーを宙に張り、土に向かって切りおろしていく。

それをはじめて見たのは、金沢美術工芸大学校舎の天井の高い部屋でだった。黒々とした大きな塊で、久しぶりに彫刻ということばが浮かんできた。立体作品の多くに、彫刻ということばがそぐわなく感じて久しいが、その黒い塊には、にんげんの肉体の跡があざやかに刻印されていて、物質に向かう肉体という初原の動きで、初原のかたちがうまれたことも示していた。そして石や土や金属という無機質のものにも時々は感じる、いまにも動きそうなという感覚が、彫刻ということばにつながった。塊は生き物の一瞬のうごきをあらわしていた。翼のような、波涛のような、地殻の隆起のような動き。実際はそれほど大きくないのに、空間の中で方向をさすような形態のため、動く瞬間のエネルギーがそこに集まっていた。

金正逸は韓国釜山にうまれ、日本滞在は8年目である。韓国では大学で陶芸を学び、兵役後、早々とじぶんの工房をもち作陶していた。しかし間もなく日本への留学を果たした。日本でも個展、グループ展、公募展などで発表してきた。
ここ京橋での個展の前に、私は愛知県常滑市のINAX「世界のタイル博物館」の「やきもの新感覚シリーズ」で、2002年6月に作品を発表してもらった。同じ年に美術の発表とやきものの発表の二つの展覧会を企画したのは、金 正逸の作品は、彫刻と呼ばれる作品群にあらわれてくる本質のようなものを、無意識に体現しているように感じたからだった。一方やきもののオブジェ作品とは、彫刻とは違うのかという疑問にも、結果として触れてしまっていた。
彫刻ということば、オブジェということばは、いま迷子になっている。オブジェは彫刻とどう違うのか、彫刻というものは古くさいものなのか。

6月の金 正逸の展覧会を、「かなたへと向かっていくかたち」と名づけた。波涛や翼が向かっていく抵抗が、緊張したかたちをつくりだしている。素直にのびやかで、きれいなかたちだった。それは土と親和していることでもあった。黒一色の翼はまるで「ギリシャ彫刻の時代まで過去未来の、はるかかなたへ向かっているかたち」でもあった。古代と未来を往還する感覚。
東京ではじめての個展を前にした8月、喜ばしいニュースが飛び込んできた。「第40回記念『朝日陶芸展』」で、40回展に特別設けられた記念賞に、金正逸の「cutting outシリーズより かなたへと向かっていくかたち−U」が選ばれたのだ。40年間の『朝日陶芸展』は、あなたの作品の「かなたへ向かっていくかたち」に未来を託したのね、と祝福した。




展覧会TOP PAGE 作家略歴 INAXギャラリー2
2002年の展覧会



INAX CULTURE INFORMATION
http://www.inax.co.jp/Culture/culture.html

ギャラリー2へのご意見、ご感想、お問い合わせ等はこちら
E-mail : xbn@i2.inax.co.jp

本ウェブサイトからの無断転載を禁じます

symbol
 Copyright(C) INAX Corporation
 http://www.inax.co.jp