gallery2

大和由佳 展
-地表の鳥-

会期 : 2006年2月1日(水)〜2月25日(土)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

地表の鳥


若い作家には、瞬きをするほどの短いあいだに、天上の造形ともいいたくなる孤高で、脆く儚く、忘れがたい印象を残す表現をたて続けに生み出す時期がある。みずみずしく、一瞬で消えてしまいそうなさまを、思いもかけない素材や物質に託して出現させる。
大和由佳は、ドローイングやインスタレーションという形式で発表する作家だが、ポートフォリオの中にあったさまざまな試みを見て、固有の強靭さに感嘆した。これまで大和の実作に立ち会えなかった残念さから、展覧会を決めた。

大和由佳の作品のほとんどに、いまそこここに満ちている、表現という名のあらゆるものから孤絶したいのだ、という意思を感じた。
余白の多いドローイングにも、まなじりを決した線と色彩と滲みの意思がある。危うげに上昇する継ぎはぎされた細い棒や、水でできているような山容と裾野のかたちにも、孤高の意思がある。
それらが長い思考や感覚のレッスンの果てなのかどうかはわからないが、作品のどれにも鉱物の質の硬い輝きのようなものを感じた。
大和は、素材が語りかけてくることばや身振りに共振して、自身を生贄にささげながら作品にしていくのではないだろうか。だから、ポートフォリオにあったどの作品からも、かすかな殺気が伝わってくる。
感覚や造形力が凄いというより、素材から造形への自身の違和を昇華させるちからが強い。
一方で、大和の身体感覚、とりわけ言語感覚にあらわれてくる作品タイトルの数々を、すぐれた現代詩のように読んだ。大和のタイトルは、それ以外にないように、くっきりとしている。
「空の水」「水は何度も汲まれる」「ドローイング−川を敷く」「ドローイング−行き先をもつ舟」。水に関するタイトルが連なったが、ことばでも、物質と行為の境にあるかすかな感覚や動きをとらえようとしていた。立たないものを立たせ、しるせないものを彩色し、水を透明なビニールシートに託している姿が見えてくる。
あるいは、「木漏れ日に立つ二本の柱」「根の落下する場所で」「線を見るために」「ある渡しかたのために」では、立つこと、落下するもの、渡し方など、作品表現を自動詞や他動詞に仮託して、あるものとありもしないことの夢想にしか生きられないと頑なだった。

今展で作家は、沈潜するように不自由であることに向かっている。とびきりの空間感覚や色彩感覚をもっているという印象の大和由佳が向かうのが、床という重力の溜まり場だ。素材は、INAXギャラリーのありきたりな床のカーペットを用いた。30cmピッチで貼られているグレーのタイルカーペットに鳥が群れる。空に飛ぶものが床に群れて広がるという反転が、いまの大和の孤絶の意思なのだろう。
きらきらした感覚の放出と浮遊から、図像と立体と重力という命題に向きあっている。インスタレーションという底なし沼のような形式で、私たちの何が覚醒されるのかと、どきどきしながら待っている。

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

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