gallery2

首藤 晃 展
-彫・動・体-

会期 : 2006年4月3日(月)〜4月26日(水)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

「彫刻というヒトガタ」


久しぶりに彫刻の作品に向きあった。いま私の中で、彫刻とは、かすかに懐かしさのようなものをまとったものを指している。懐かしさには、消えかかっているものという意識もまじりあっている。
なぜこんなふうに、木、石、鉄などの素材を彫り刻むことが、リアルに感じられなくなってしまったのかとしばらく考えて、思い当たった。
彫刻とはいつのまにか、公園や街路やビル街にあるものになっていた。作品は、等身大以上の抽象的なフォルムで、野外彫刻公園の芝生の上や、ガラスや大理石のビルの壁と競いあって、都市のビルとビルの狭間やエントランスに立っていた。それ以来、彫刻に屹立の孤相が消え、光景の中に溶け焦点を変えていた。
そんな実感を抱いていた頃に、首藤晃のファイルを見て、実作を見る機会を待った。


2005年8月、千葉県印旛郡にある「メタルアート・ミュージアム光の谷」での個展の案内状を手に、遠目には田んぼの緑に浮かぶように見えるミュージアムを訪ねた。
首藤晃の作品は屋内と、ミュージアム中庭の日盛りの芝生のなかにあった。特に屋外の作品は植物の緑と風とうつろう日差しの動きによって表情を変え、朗らかで伸びやかに見えた。今にもゆっくりと、カタカタと動きだしそうなかたち。首藤の作品によく出てくる車輪やピストンや魯のようなものがここにもあった。
作家は少しのあいだこの地に滞在して制作したという。この地へ親近感を抱き、安心して制作をしたのだと思った。
首藤晃は北海道に生まれ、青森県弘前大学大学院で美術教育の専修過程を修了している。現在は青森に住み、東北エリアでの発表が多い。
作品タイトルに「海人」「潜水棺」「海市」「漂流」など海や水のことばが記されている。彼の彫刻は農、漁業の仕込みや収穫の道具や機械のようにも思えた。それらはおじいさんのもっと前のご先祖から、ゆっくりと手作りされ、改良を重ねられてきた、人体の動きのかたち具のようでもあった。深い水底を探る長い腕のような部位や、熊手のように掻き集める櫛形の触手などをもっていて、それらは、彫刻というヒトガタだった。
地方在住の作家の作品には、確実に風土のような相貌があらわれて、ある。それらは時に鬱陶しく思えたり、時に深く親密な情動を誘うが、近年、立体作品や空間表現の多くが「インスタレーション」という形式ばかりになってくると、センスとナンセンスのジャムセッションの才気からも逃げたくなる。
美術とは、絵画とは、彫刻とはいったい何なのだろうか。町々の画廊空間に美も術もいっぱいある。街角や公園では巨匠たちがケンを競う。映像は眠らずに流れつづけ、雑貨というお宝も累々と積まれて溢れている。
首藤晃を通して確信したのは、ある土地のある素材の感触や、そこに流れた時間、まなざしを向けた人々の気配や匂いがかたまりになって、にゅうっと現れ出たものを彫刻というのではないかという感慨だった。
首藤晃の彫刻は、働く動きが骨格と輪郭となったヒトガタだから、叫んだり笑ったりする。

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

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