gallery2

吉村敏治
-陶変異体-

会期 : 2006年5月1日(月)〜5月29日(月)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

「妖変異体」


吉村敏治は30代前半の若い作家で、主に陶芸ジャンルで発表をしてきた。若いが、作品は老練な気配も見せる。あたかも曽祖父の遺品から発見された、出自不明のオブジェのような、また、たとえて言えば、江戸川乱歩の小説舞台やそこに配された道具や小道具を彷彿とさせる。彼のオブジェは、何もかもが意味ありげに見えて、事件の謎解きの鍵を握る遺留品のようなのだ。吉村の作品には、妖しさとあやかしの力がある。

近作は大型でミニマムなかたちの、空間に緊張感を作り出すインスタレーションを展開しているが、私は幾種類もの素材が、思いもよらぬ相手に驚き威嚇しあい、緊張して接合しあっているような妖しげな作品が好きだ。
吉村敏治は錬金術ならぬ錬土術という術を使い、陶をメインに金属や機械部品を隣りあわせ、茶碗からオブジェまで、あらゆるかたちとディテールを総ざらいしている。
これまで出てきたモチーフは、手首から先の手のかたち、馬頭や羽根のちぎれたかたち、歯車、ロープ、プロペラ、バケツ、バイオリン、釣鐘、天秤など、書き出してみると、ひとつひとつが濃厚に物語性を示唆する。いまという時代、彼という若さにあって謎めくモチーフともいえるが、それらは自分らしいという不確定な表出への疑いだ。彼にあるのは、あらゆるものを表出したい欲望と、それらへのバーチャルなリアル感だ。美術に限らず表現者のなかには、作家性多重人格者と呼びたい、あらゆることを表出させたいという欲望をもち、作風が変わり続ける作家達がいる。驚嘆しつつ彼らの内面を想像してみると、彼らには抽象も具象も風景も道具も宝飾品も、秘仏も宇宙船も何もかもが予め内在しているために、素材を自在に操り、時代や人々の無意識までを織り込んで、作品という名の変異体を出現させてしまう、変異体なのだ。あるいは、芸術の囚人。吉村もまた土でいう窯変ならぬ妖変の異体であり、万物表現の刑を架せられた新人の囚人のように思えてくる。
彼は、美術大学で初めて陶芸を選択したというが、高校時代までは絵画やデザイン表現に関心があったという。なぜ大学で陶芸を選択したのか、きっと土の類まれな可塑性を予見していたのだ。彼の表現は、時代と空間の割れ目からこぼれ落ちたようなモノの断片を見つけた時、イメージが起動する。断片は高速回転で脳でミックスされ、目に焼きつき手が動き出す。
大学時代の一時期ピエロ・デラ・フランチエスカやバルテュスをトレースしたこともあるという。またあるときは陶板に絵を転写するなど、復刻や複製や再現性を学んできた。いまは、陶磁の素材に古今の表現全部を生き写しにしたいのだ。絵画、彫刻、デザイン、写真、まんが、アニメ、コンピュータグラフィックス。土という素材は数ミリずつ動かせて、アニメーションのセル画さえ可能にする。
古ぼけたものに宿るセピア色の官能までを表現した、三重人格分ほどの作品が並ぶ。「期待と恍惚と不安われにあり」と天才の先人の言の葉に加えて、展覧会を待っている。

入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)

展覧会 TOP PAGE

INAXギャラリー2 2006年の展覧会


ページのトップに戻る

INAX | mail:xbn@i2.inax.co.jp (件名・メールタイトルは必ずお書き添え願います ) |
Copyright(C) INAX Corporation All rights reserved. 本ウェブサイトからの無断転載を禁じます。