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不思議建築のレントゲン
−欲望の巨大装置−

解 説

都市をひとつの人体に見立てれば、膨脹する都市の生活を支えるさまざまな施設、たとえば
エネルギーの生産・供給施設は心臓や血管、ゴミ処理施設は大腸や腎臓ということができます。
この展覧会で扱っている国内外の不思議建築を機能別に"人体の部位"になぞらえ,
分類してみました。


"空に集結する頭脳" 国際宇宙ステーション

International Space Station
所在地:上空407km
設計:NASA<National Aeronautic and Space Administration>
完成予定:2003年

URL( 国際宇宙ステーション他NASAのいろいろな施設にホームページ上で行くことができます)
http://www.nasa.gov/

地球から407km上空に計画中の国際宇宙ステーション。日本を含めた29ヶ国が計画に参加している。完成すれば、アメリカのスペース・シャトルなどで限られた時間で行われていた実験がいつでもできるようになる。1998年6月に建設を始め、2003年に完成の予定。部品はスペース・シャトルやロケットで45回に分けて宇宙に運ばれる。完成時の規模は幅108m、長さ88m、重さは450t。使用電力は太陽電池で供給する。ステーション内の空気は地球とほぼ同じに保たれ、7人のクルーが常駐する予定だ。


"宇宙と物質の謎を見つめる巨大複眼" スーパーカミオカンデ

Super- Kamiokande
水槽体積:直径約39m、高さ約41m、容量5万t
所在地:岐阜県吉城郡神岡町
設計:日建設計
完成:1996年
資料提供:東京大学宇宙線研究所

URL(スーパーカミオカンデが完成するまでの映像が見られます)
http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/

光電子増倍管 奥飛騨の山々に囲まれた神岡鉱山地下1000mに東大宇宙線研究所が建設した巨大水槽。
宇宙から飛来するニュートリノと水中の陽子という2つの素粒子を見つめる観測装置である。素粒子で星の進化や銀河形成などのメカニズムを探る目的で、ニュートリノを観測し、また水分子の陽子崩壊を監視する。硬い岩盤をくりぬいた空洞に世界最大級の地底巨大タンクを設置し、周囲に直径50cmの光電子増倍管1万1200個を研究者自身の手で取り付けた。地下深く設けたのは、上空から降り注ぐ大量の宇宙線の影響を除くため。270tもの重量がある天井部はタンクの底で組立て、クレーンで1日に5mずつ、1週間かけて引き上げた。タンクの水は地下水から注入。この光電子増倍管(左図)は、陽子が崩壊したり、ニュートリノが水中の電子を帯びた粒子とぶつかって発生するチェレンコフ光をとらえる。集められた情報は光電子倍増管からケーブルで水槽上部のコンピュータ室に送られる。


"バロックの貴婦人は厚化粧" パリ国立オペラ座

面積:1万1237F、容積42万8666立米、高さ82m
所在地:フランス、パリ
設計:シャルル・ガルニエ
建造期間:1862-75年

1860年、ナポレオン3世は、偉大な力を誇示できる劇場の建設を当時31歳だったシャルル・ガルニエに任せた。建設用地は湿地帯であったため、7ヶ月かけてポンプで水を抜き、地下水を誘導する運河を掘るなど、工事は困難を極めた。建設に伴ってできた地下を走る運河が「オペラ座の怪人」の舞台である。観客席中央のドームは鉄製で、当時の最新技術を駆使している。まるで工場でもつくりあげるような膨大な技術と設備は、バロックの粋といわれるファサードと華奢なホワイエの背後に隠れている。正面ファサードは幅70m。
壮大さを象徴するような美しい大階段の第1段から天井までの高さは30m。バロックの宝石箱を支える巨大な技術は別のデータもある。扉の数2531、錠前数7593、階段数6319、蛇口573、設備配管の長さは合計で6918mもある。


"パンチングメタルの肺" 加久藤トンネル換気所

所在地:熊本県人吉市大畑町、宮崎県えびの市東川北町
設計:小山明、DER Plan
竣工:1989年
資料提供:くまもとアートポリス

URL(加久藤トンネル換気所の映像が見られます)
http://www.pref.kumamoto.jp/enterprise/artpolis/links/003.html

トンネルの肺として働く換気所。汚れた空気を押し出し、新鮮な空気を送り込む。建物全体を覆っているパンチングメタルは、外気取り込みのフィルターとして機能している。換気システムは、空気を送り込むダクト、流れを与えるモーター、整流するファンネル、そして、濾過するフィルターをコンクリートの箱に収めるのが一般的。しかし、ここでは、全体をコンクリートではなく、「フィルター」で覆い、効率よい換気を実現した。従来のものよりフィルターの面積が十数倍になったため、単位あたりの流量が減少、清掃や交換というメンテナンスが不要となった。フィルターを透かして肺のダイナミックな働きが見えるようなっている。トンネルの両側出入り口に2棟建設されている。


"地下の心臓" LNG地下式ガスタンク

体積:直径64m,地上高3m,地下高43.65m
所在地:千葉県袖ヶ浦市
資料提供:東京ガス株式会社

銀色に輝く巨大な円盤は、都市ガスの原料となる液化天然ガス(LNG)の貯蔵庫である。
現在、日本は年間4000万t以上の天然ガスを諸外国から輸入している。採掘地で気体をマイナス162度に冷却し液化、体積を600分の1に縮小して後、タンカーで全国12ヶ所にあるLNG受入基地に輸送する。LNGはとても冷たい。そのため地下式タンクの側・底部にはヒーターを入れ、外側の土が凍結するのを防いでいる。タンクの内側には保冷材を使用し、その上を「メンブレン」という低温に強い金属で覆っている。メンブレンは温度によって伸縮するため、金属面には「コルゲーション」というタテヨコの規則正しい「ひだ」がつけられ、タンクの伸縮を吸収している。LNGタンクには地上式と地下式があるが、地震への安全対策上、現在では地下式が主流である。LNGは海水をかけると熱交換によって再びガス化され、ガス導管を通じてわたしたちの生活の場に送り込まれる。


"卵形の大腸" 横浜市北部汚泥処理センター汚泥消化タンク

断面イラスト 汚泥消化タンク
体積:最大直径22.7m,地上高33.6m
所在地:横浜市鶴見区
完成:1988年
写真・資料提供:横浜市下水道局

この巨大卵は下水道で残った汚泥を最終分解するための「消化タンク」。市内11ヶ所にある下水処理場から汚泥を送泥管で集め、南北2ヶ所の汚泥処理センターで処理している。いくつか寄り添って林立するそれぞれのタンクの中で、汚泥を攪拌しながら微生物の働きで汚泥中の有機物を分解し、消化ガスや固形物などにする。消化ガスは脱硫し熱源に、また固形物は脱水して清浄な灰とし、れんがや園芸用土に利用され、水は消毒して川や海に放流される。一般にタンクは円筒形や亀甲形だが、卵形なのは、攪拌のデッドスペースをなくし、また底部の大きな勾配で汚泥の引き抜きを容易にし、タンク内に土砂を沈殿しにくくするためである。


"生命維持装置" 海遊館

所在地:大阪市港区
設計:(株)環境開発研究所、ケンブリッジ・セブン・アソシエイツ
竣工:1990年
資料提供:大阪ウォーターフロント開発(株)

URL http://www.kaiyukan.com/

水深9m、最大幅34m、水量は5400tで25mプールの約30倍。十字型水槽の中で6m以上もある巨大ジンベエザメが悠然と泳ぐ。都市水族館の代表格、大阪・海遊館の世界最大級の太平洋水槽。水槽を取り巻くように、アレウト列島や日本海溝などテーマ別に別れた水槽が設置されている。巨大水槽は、 アクリルパネル の技術向上により可能になった。
太平洋水槽で使われた最大パネルは、厚さ30cm、縦5m、重量約10t。板厚は経年変化や水圧による変形を考慮し算出してある。飼育する約350種、3万9千点の生物が住む水槽の水は、遠く太平洋の海水を7回にわけ船で運搬され、リサイクル利用されている。その水質を維持また魚たちを毒性の強いアンモニアや亜硫酸から守るため、展示水槽の直下に機械室を配置。約100台のポンプと約60台の濾過器を使い1日16万tの水を動かす。館内に張り巡らされたパイプの長さは合計で約20km。24時間365日休むことなく稼働している。


"自分で手を動かせ" グダニスクのクレーン

The Crane of Gda'nsk
所在地:ポーランド、グダニスク
完成:1444年
資料提供:Polish Maritime Museum

URL(ポーランド海事博物館の歴史と木造クレーンの映像が見られます)
http://www.abc.se/~m10354/mar/musmorsk.htm

1000年の歴史をもつポーランドの港町グダニスク。港に向かって張り出す木造のタワーは、1444年に造られた中世ヨーロッパ最大の、そして現存するヨーロッパ最古のクレーン施設である。高さ30mもあり、上下2つのクレーンを備える。その動力は人力で、巻上げ軸の両側にある大きな車輪の中をハムスターのように人が歩いた。車輪は上下2組で計4つ、直径はそれぞれ上が6.5m、下が6m。1つの車輪を4人で動かしていた。上の車輪は2tの重さを27mの高さに引き上げ、2つのクレーンが協働すると4tの重さを高さ11mまで引き上げることができたという。19世紀にはロープはチェーンに取り替えられ、非常用ブレーキも装備された。1962年よりポーランド海事博物館として使用されている。


"巨大な脚でせき止める" テームズ・バリア

断面イラスト Thames Barrier
中央部ゲートの体積:幅61m、高さ20m、重量約3300t
所在地:イギリス、ロンドン
設計:旧大ロンドン市公衆衛生工学省、レンデル・パーマー&トリトン
竣工:1982年
写真・資料提供:The Environment Agency, U.K.

URL(テームズ・バリアの歴史や作動のしかたなどを知ることができます)
  http://www.environment-agency.gov.uk/info/barrier.html
テームズ・バリア テームズ川の川幅520mいっぱいに並ぶ銀色の突堤は、ロンドンを高潮の被害から守る防波堤である。約15分で、川底の通常位置から、円盤と一体化した鋼鉄性のゲートが90度回転して川の流れをせき止める。中央部ゲートの重さはパリ、エッフェル塔の半分にあたる。ゲートを回転させるのが、円盤に接続しているビートと、その背後にある銀色の覆いの中に隠された油圧式のシリンダー。上下のシリンダーがお互いに反対の方向に動くことによって、ビームは自転車のペダルを踏む脚のように動き、ゲートを回転させる。この堰のデザインは41もの案の中から、コンパクトな形、形態の魅力、環境への配慮などが評価され選ばれた。設計者はガス栓からこのデザインのヒントを得た。1974年に工事が始まり、82年10月から稼働。いままでに約30回、この脚はゲートを押し上げてきた。少なくとも2030年まではロンドンを護る予定である。


"4本脚の宮殿" バタシー・パワー・ステーション

Battersea Power Station
所在地:イギリス、ロンドン
設計:サー・ジャイルズ・ギルバード・スコット(外装)、J.テオ・ハリデイ(内装)
竣工:1933年(Aステーション),1953年(Bステーション)

URL http://www.batterseapowerstation.com/

巨大な柱は実は煙突。かつては火力発電所であった。ロンドンの都心のほど近く、テームズ川の南岸、バタシー地区に建つ。現在の形になったのは1953年のこと、それまでの20年間は今の半分、2つの煙突を両隅に持つAステーションだけだった。第2次大戦後にBステーションの建設が始まり、最大出力509メガワットと、イギリスで3番目の発電量を有し、ロンドンの5分の1の電力をまかなう発電所になった。1920年代まで、イギリスでは無数の私営電力会社が乱立し、それぞれが個別の企業に電力を供給し、余剰電力を公共のためにまわすといった状況だった。その混乱を収束するために築かれたのがこの大発電所である。鉄骨造で外壁はれんが張り。アール・デコの内装も豪華で制御室は大理石張りである。ロンドンっ子の人気建築だった発電所も1988年までにAB両ステーションとも操業を停止。建物をアミューズメント施設に転換するなど、再開発が提案されている。


"空中サーキット" フィアット・リンゴット工場

Il Lingotto
面積(工場):15万3000立米、階高:5階
所在地:イタリア、トリノ
設計:ジャコモ・マッテ・トルッコ
竣工:1921年(工場)、1923・27年(ランプ)
資料提供:Lingotto Str.

屋上を車が走っている。これはトリノにあるフィアットの自動車工場。レーシング・トラックは実際は完成車のテスト・コースである。直線部の長さ443m、1周すると1kmにも及ぶ。工場が完成したとき、その形状から「リンゴット(延べ板)」と呼ばれた。幅24m、長さ507m、高さ26mの直方体が間隔を空けて2つ並び、その間を、階段や大小2基のエレベータや休憩室の入った5つの棟で繋いでいる。鉄筋コンクリートの柱と梁は当時の最先端で、工場としては先駆的な構造をもつ。6000人が働いたこの工場の生産ラインは、下階から上階に行くに従って完成に近づくようになっており、組み上がった自動車はすぐさま屋上でテスト・ランできた。さらに工場の両端に1階から屋上までを貫く螺旋のランプ(斜路)が増設され、工場のどの階からも車を直接屋上に運べるようになった。ヨーロッパ最大の工場も今は閉鎖され、会議場、ホテルなどを含む多目的ビルへと生まれ変わった。


※イラスト製作:篠塚 務




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