会期:2001年12月3日(月)〜25日(火)
休廊日:日祝日
Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。
宇宙画廊の彫刻 入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター) 市毛富美子の手が突然うごきはじめた。長い年月、彼らにとっては美術はもちろん映画や音楽やまんがやSFや、土を見てさえ多次元の飛翔を夢想するのが日常だったから、雲や霞が湧きおこるように、前触れもなく市毛の指先からきみょうなかたちがあらわれてきても、別段ふしぎなことではなかった。 彼らとは、立石大河亜と市毛富美子。60年代はじめ頃の読売アンデパンダンが出会いだったらしいが、市毛は贅沢にも羨ましくも、パートナーだった立石大河亜の画面や立体の中を浮遊し、快感を蕩尽していた。しかし立石は1998年4月、56歳の若さで亡くなってしまった。私たちにとっても大きな喪失だった。 およそ2年が過ぎた頃、市毛はふと針金を手にとった。あっという間もなく新たな日々がはじまった。 市毛の実現したかった作品とは、宇宙の画廊に設置された彫刻というイメージなのだという。宇宙が、現実として探求される前から、求めるかたちは宇宙のようなところにしかなかった。そのいつか手にしたい像は、ようやくかたちを現そうとして、脳裏から手へ信号を送っていたのだろう。 制作がはじまってまだ2ヶ月目くらいの晴れ渡った2000年の秋、晴れ渡っていることに誘われて突然房総半島の養老渓谷を訪ねた。立石のアトリエだった部屋に、あかるい人魂とでも呼べそうな、ネット状の透けたかたちがいくつかあった。「少しまえからこんなのをつくりはじめたの」と市毛が言った。何度も見てきたようなかたちなのに、細くて硬く、白い金属というミニマムな糸状のものが、市毛の夢想と繋がったのだ。 |
白い塗装された針金を、ペンチだけで操っていく。最初はきっと単純な球体だった。つぎにはどっかが歪んできた。そして窪みができ、窪みはトンネルになった。どこまでもつながりながら、どこからも抜け、また吸い込まれるように合体していく。真っ白な針金の立体は、光と影の具合で、焦点が消えたりする。立体が蜘蛛の巣のようにひらたく見えたりする。ときおりは人魂ふうの、あかるいいきものにも感じられる。
瞬時の手の動きは、いつも大きな何かにうながされているのだ。作品になるとはそういう状態をさすのだ。これら市毛の作品は、星雲のような一瞬もとどまることがないエネルギーの放出のかたちだ。 市毛は1998年5月に土による多次元のかたちを名古屋のC・スクエアプラスで発表している。そのはるかまえから多次元的かたちを探りつづけてきたから、今回の作品は偶然な発露ではないが、その時の素材は土で、焼かれてあった。焦点や天地も、方向も瞬時に転換してしまうかたちへの挑戦だったが、土の粒子では重力をまとい、重たげだった。今展ではかろやかになった。宇宙の画廊に展示されてある未来の彫刻、という夢想に近づけたのだろうか。 |
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