gallery2

中西信洋 展
- 満ち溢れているもの -

会期 : 2005年3月1日(火)〜3月29日(火)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

満ち溢れているものへ

中西信洋の作品に出会ったのは、大阪のノマル・エディションというギャラリーだった。薄暗い空間の中に、ライトを仕込んだアクリルボックスの上に、5cm四方ほどの小さな箱のようなものが3×3で等間隔に整列していた。

覗き込んだ瞬間に、はじめて出会うものだったことがわかった。それは、よく見る35mmのポジフィルムが何枚も重なりあったものだった。下からの光に浮びあがっていたのは、細い線の散らばりが箱の奥までくねるように広がっているものや、重なりあう螺旋のような輪のかたち、毬藻色のどろりとしたものが蠢くものなどがあった。透明なさまざまな生きもの、卵子のような感触が残った。

やがてひとつひとつのそれらは、針金やお茶の葉、輪ゴムや胡椒やアイスクリームや紙の焼け跡が透明な背景で写されたものの重なりだと知らされた。線状のもの、粒状のもの、溶けたもの、焦げたもののかたまりや輪郭を少しずつ変化させ、時間をずらして写しとったポジフィルムが24層になっていた。フィルムはマウントで固定されている。5cmに満たない縁のある井戸のような立方体には、24の時間が流れている。蠢いて見えたのは、時間だった。

「Layer Drawing」と名づけられた、積み重ねた時間とかたちの物心マンダラ。正方形の上面に底から光が差し込んでくる台に3×3列で並んでいた。24×3×3、そこには216の時間とかたちがあった。


中西信洋は1976年福岡生まれの若い作家だ。彼のそれまでの制作ファイルを見せてもらった。立体もドローイングもインスタレーションもある。樹脂のかたちも水彩も写真もある。

どの素材をつかった制作でも、中西信洋は無いものを探す。満ち溢れているけれど、見えないものに向かっている。

中西のかたちには境界がなく、焦点をもたず、見えないものを希求していた。すべての作品で、見えないところにあらゆるものが横溢していると証明したがっていた。

絵を描くときは、モチーフ以外のすべてをあらわそうとする。立体をつくりながら、かたち以外の空気や空間や、そこにある関係のすべてをあらわそうとする。そこにないもの、それ以外のものをあらわしていた。だから素材を変え、技法を変え、あらゆるものを疾走するようにつかみ取ろうとしていた。

焦点の消去を、消失点の顕現を、円環と螺旋の無限を、透明な立体を、重なりあう水の色彩に向って、満ち溢れるものへ向っていた。

今回会場には、最新の「Layer Drawing」が立体マンダラのように9体配置される。一体に24層の透明で蠢くものが3×3列で並ぶ。1944回のいのちのようなものが並ぶ。

空や雲、木や水や光の気配と粒子も一枚一枚重なりあって、生命誕生の瞬間のようにうずくまっている。それら小さな透明な像は、若い作家の清澄で狂おしい夢想だ。

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INAXギャラリー2 2005年の展覧会


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