INAX GALLERY 2

1998年9月のINAXギャラリ−2 Art&News
ポール・マトックス(Paul Mattocks) −無限反復−

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



世界を平らにした芸術

フィリダ・バーロー(美術家)
訳:ユカリ・ウェーレル

ポール・マトックスの地球の景観を現わした平面作品では、点印によってある領域を定め、そこに起伏や幾何学的な空間を描き出している。作品の元素の形態にまで凝縮された地表は、偶発的に生じた動きを偶発のままに、反復を通してエッセンスを抽出し、その動きを恒久化している。最初彼の手で作成された黒字に白の点のユニットは、コンピュータによる機械的な反復を経て、スケールの大きい点描の画面となる。人の手を加えることから手を加えないことへ、手作業からコンピュータによる機械作業へ、多大な労力を要するコラージュから継ぎ目なく作りだされていくコンピュータ画像。この制作のプロセスはまたホットなイメージからクールなイメージへの移行でもある。

見る者がポール・マトックスの作品から体験することは、作品そのものというより作品をとおして得られる「海」の感覚である。それも岸辺にたたずむのではなく、海に囲まれ、果てしなく続く水平線と空のわずかな隙間にフレーミングされた世界を体験する。平面作品ではあるとき切断されることによって、また立体作品では展示空間内の間合いによってフレーミングされる。

平面作品からは物理的な性質である重量感やマッスが細心に取り除かれているように見えるが、矛盾しているようだが重量感やマッスはそのものに内在しており、見る者はその存在をそこから読み取ることができる。それはあたかも、海の表面からその下に存在する膨大な重量感やマッスを切り離すことができないように。海の表皮を剥いでしまおうとは、現実感のない架空の世界での発想だが、人の手と機械が共同で制作したこれらの作品では、海の物質性は見事に切り離され、見る者はそこに海がもっている質的なものだけを見い出すことができるのである。

平面作品を地図とするならば、立体作品は模型である。立体作品の「タイル」というタイトルは、互いに繋がれており反復パターンは無限に続き、あたかも数光年も離れた世界まで示しているようだ。その作品においても本来タイルがもっている岩石、水、空気の物理性は捨象され、別世界の「一例」に置き換えられている。反復によって増殖していく立体作品には、地球そのものの形はなくても地球に存在する「元素」の美しさがあって地球の景観を表現するという不思議な復元力をもっており、実在不可能だが理想的な世界を美しく抽出している。

平面作品の「タイル」にも見られる彼の反復パターンは、人の手と機械が結合した制作課程を通して、地表のリズムをとらえている。こうして終りなく、孤独で、独立した完璧な反復のヴィジョンが生まれているのだ。

これらのユートピアの空間は、カオスを越えて存在している。反復は畏怖するような美しさを創り出し、継ぎ目のない無限は、自然の終焉に対するおそれと同時に再生への希望を証言している。

1998年6月21日




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