INAX GALLERY 2

1999年2月のINAXギャラリ−2 Art&News
藤井浩一朗 展 −鉄線ドローイング−

会期:1999年2月1日(月)〜2月24日(水)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



鳥瞰的絵画

入澤ユカ
(INAX文化推進部チーフディレクター)

「佳作の最後は藤井浩一朗さんの『未来地』。アクリル板に無数の細い針金を差し込んだ作品である。私はこの作品には興味を感じました。というのも、この作品、出たとこ勝負でやっているように見えるからです。それだけ見るものはリラックスして見ることができる。リラックスして見ることができるというのは、こちらがいろいろ想像できるということです。芸術家によるイメージの押しつけからもうみんな自由になろうではありませんか。」これは1998年の現代美術展の佳作に選ばれた藤井さんの作品を評した、美術評論家中原佑介氏のことばである。彼の展覧会を決定してからこの資料を見せてもらって、嬉しかった。長いあいだのうちに、私は中原さんのリラックスごのみ、ユーモア好きに影響をうけてきた。立派だが面白味のない作品というのがあって、そんな作品はどうしても選べない。何かが足らないというならわかるが、稠密だ、立派だということで選べない不思議さ。藤井の作品には、空気が流れ、広大さや天空の高さがあって息がつける。

作品はまるで低空で飛んでいる飛行機からみたシベリアの原野のように思えた。アルファベットのMのかたちが、そこここに点在しているのに、私には白いシベリアの大地を走る野生の動物の群れに見える。重なり合う鉄線が揺れや動きとなる。実際低空で飛んだこともなければ、群れなす動物も見たことがないのに、私にはそう見えた。また斧やリボンの図が現われている作品では、瞬時ナスカの地上絵のようだと口走っていた。そしてすぐにシベリアの原野やナスカの地上絵だと感じたことは、鳥瞰の視線で見えてくる作品なのだと感じた。藤井の作品は「鳥瞰的絵画」なのである。

中原さんの評で彼の作品の制作方法に触れて「出たとこ勝負」でやっているのがいいというのがあって、私もそう信じこんでいたが全く違っていた。かたちに関しては何百回ものエスキースや、ドローイングがなされ、鉄線のかたちの配置はもっと慎重だ。まず、縮小のテスト板に印がつけられ、鉄線でかたちをあらかじめ準備しておく。その後板の裏から表に向かって穴を開ける。そして表からかたちを差し込んでいく。なぜそんな手間をかけるのか。固い板に細い鉄線は刺さらないし、きれいに固定されないからという。本番は大きくなって板にキャンバスを張り、絵の具で地をつくる。鉄線の造形は細く弱いものなのに、まるで大地から生えた木のようにきれいに立っているのは、計算されたことなのだ。

彼は長いあいだ、鉄を溶断して樹皮のようなテクスチャーにし、その細片を貼り付けた、大きな立体作品を作ってきた。それが板の支持体に細い鉄線を差し込んでいく表現をはじめた。作家がこれほどの手間のかかることをしているのに、見る人間には出たとこ勝負か、一気の構成力と感じてしまう乖離が面白い。手の内にわざわざ触れたのは、ありそうでない彼の手法が、平面作品を水平方向で見ているのに、鳥瞰の感覚をもたらすものの原因なのではないかと思ったからだ。支持体に様々なものを貼り付けた作品は目新しいものではない。しかし細い鉄線が画面から生えてくるような藤井の「大地絵画」あるいは「浮き線絵画」の妙は、細く、小さいピースの多用で広大さとムーブメントを表現しえていることである。彼の鉄の大きな立体が広大さを現さず、細い鉄線がパースペクティブをもらたすアイロニーもまた、中原流にいえば見る人々を「リラックス」させてくれてくれる要因であり、ゆるやかに空気が流れてくる作品は清々しくて気持ちがいい。




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