INAX GALLERY 2

2000年2月のINAXギャラリ−2 Art&News
トミー・リー (李永詮) 展
−グラフィック・エナジー −

会期:2000年2月1日(火)〜2月26日(土)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



トミー・リーの世界

建畠 晢(多摩美術大学教授)

もしデザイナーをビジュアル派ニメッセージ派に分けることが可能だとすれば、トミー・ リーは徹底したメッセージ派ということになるだろう。彼が自らの制作プロセスを「氷山の法則」と呼ぶのは、何よりもデザインにおけるコンセプトを重視するからである。ビジュアルな要素はそのコンセプトを表現するための一つの手段に過ぎない。コンセプトとは氷山のようにものであって、露呈しているのはそのごく一部であり、水面下を深く探究すれば探究するほど、新たな領域の発見の驚きも大きくなって行く―。そう、彼は主張するのである。 彼のデザイナーとしての活動はエディトリアルからパッケージ、スペースデザイン、ロゴなどのCIまで多岐にわたっているが、中心となるのはやはりポスターなどのグラフィックの分野であるに違いない。
伝えるべきメッセージが、言い換えれば受け手とのコミュニケーションの可能性が、トミー・リーの創造力を不断に活性化させているのだ。

自らも認めるように、彼の表現の方法はきわめて多様であって、様式のレベルでは一貫した特質を見出しがたい。構成主義的な場合もあればアレゴリカルな気配を宿している場合もあり、また手法的にもイラスト、写真、オブジェ、コラージュ、さらには文字を主体にした作品など、多岐にわたっている。トミー・リーならではの世界は、ビジュアルな面での固有性にではなく、むしろそれぞれのメッセージの要請に応じて斬新なコンセプトを創出して行く、いかにもフレキシブルな発想にこそあると言うべきであろう。

彼はまたコンピューターを駆使しながらも、なお"グーテンベルグの銀河系"の由緒正しい住人であり続けようとしているアーティストである。彼の手になるスリリングな矩形のフィールドは、紙に出力されなければ、紙の「質感と匂い」を与えられなければ、表現としては完結しえないのだ。出発点でのスケッチもまたモニターの上ではなく、紙の上でなされているからには、まさに蔡倫以来の“紙のエロス”が、この時代の先端に立つ手の欲望を誘っているということになるのかもしれないのだが―。

周知のようにトミー・リーは、香港を代表する存在として数多くの国際的な栄誉に輝いている。この他に類例のない歴史をもつ港湾都市の政治的、文化的な背景は、デザイナーとしての彼にとっても、きわめて特権的な環境をなしてきたに相違ない。このことは「マカオ返還記念ポスター」や「"溝通"聯展ポスター」などの緊張した表現に明らかだが、また漢字とアルファベットがほぼ等価な比重をもって扱われるという、ハイブリッドなタイポグラフィーの処理の卓抜さにもうかがうことができよう。

トミー・リーも若い日には日本のポップカルチャーに学んだという。今回の個展で、その彼の洗練されたマルチカルチュラルな世界に触れることは、日本の若い世代のデザイナーたちにも大いなる刺激となるはずである。




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