INAX GALLERY 2

2000年8月のINAXギャラリ−2 Art&News
ワンウィーク・セレクション 展
−予兆のかたち −

会期:2000年7月31日(月)〜8月28日(月)

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



入澤ユカ
(INAX文化推進部チーフディレクター)

樋口明宏 ― 目をずらす

シマウマの縞もようの毛皮は、それ自体アンフォルメル絵画のようにも見える。いくつかの動物の毛皮は、私たちの視覚を刺激するような図像と色彩をしている。
動物園や、植物園や水族館でも、珍しい動物や花や魚に、どこにでもいる動物の私が眺められている、と感じたことがある。珍しとは目をずらして見たものではないのか。
樋口明宏の作品は、動物のある部分をずらしたり強調することによって、何かを呼び寄せる。死者のかたちや時間までを呼びさます。画廊にすっくと立っているシマウマの皮を腹にまいたシマウマに似た動物様のいきものは、アンフォルメル絵画が生まれた時代や、つい数ヶ月前のバックや靴までを体現しているかのようだ。
新作は熊の毛皮をまとったテディベア。熊のぬいぐるみが熊の毛皮をまとっているだけなのに、感覚が粟立つ。ぬいぐるみとは死んでいるものなのか。なま皮のぬいぐるみとは矛盾した存在か。動物彫刻という呼び名はあるのか、そんなことにも粟立つ。

作家略歴



齋藤良 ― 目のない会話

今回のワン・ウイークセレクションは偶然にも、動物・人体・目という身体性をテーマにした作品になった。1ヶ月という会期では選べなかった理由のようなものが、3人の作品から垣間見えてくる。
美大の卒業制作展や院の終了展では、人体は彫刻の裸婦をはじめ、人物画としても今だに沢山展示される。[ほんとうにこんな裸婦を作りたかったの?]という言葉を呑んで眺めてきた。中年とおぼしき腰が張った力強い女性の裸像。[同世代は皆うんと痩せていて足も長いでしょ?]
齋藤良の人体は首から下が普通のワークシャツとズボン姿だが、顔の部分は透明なカプセルで、中にカラフルなチップが入っていた。齋藤の作品からは、彼らの時代の身体性のようなものを感じた。
顔の全面から落ちてくるチップは手であつめられてまた戻る。すべての動力はモーターだ。後になってタイトルが[耳のない会話]と知って、意味を持ちすぎそうなタイトルに、少し反発した。
新作では腹の部分から前方にベルトコンベアが伸びていてチップは往還する。こんどは[目のない会話]だろうか。あるいは[繰り返される会話]なのだろうか。

作家略歴



夏原新 ― 目を盗む

夏原新の作品では、フェイクファーに人体の映像を映したものに目が止まった。真夏にふわふわとした毛足の長いファーに寝転んで映像と手触りを味わうという趣向が面白いと思ったのだ。
しかし後日、すでに早い時機に同じような作品を制作している作家がいたと語り、モチーフを変えた。
目だという。直角の内側2面の壁に目の映像が映し出される。睫毛が庇のようにかぶさっている彼自身の目の映像。観客はその目に吸い寄せられるように歩を進める。と黒目には観客が写る。先駆的な写真作品にも、眼球に写った被写体をテーマにした作品があるが、それに似ている。しかし夏原の目はふいに動き、観客は彼の目の動きを追いかける。と思う間もなく、見ている姿が目の中に取り込まれていることに気がつく。夏原の眼球を捉えた瞬間に、夏原の眼球の中に入りこんでしまうしかけのコンピュータを使った作品だが、私たちはこの展覧会でいったい何を見たことになるのか、私にも今はよくわからない。

作家略歴



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