INAX GALLERY 2

2001年2月のINAXギャラリ−2 Art&News
杉山啓子 展
− モリスの遺伝子 −

会期:2001年2月1日(木)〜2月26日(月)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



モリスの遺伝子

入澤ユカ
(INAXギャラリーチーフディレクター)

懐かしいものと、未知なるものがまじりあって、いきものの気配を漂わせたものが、そこにあった。
植物のかたちをしているからなのか、床や壁から動き出しそうだった。少し恐怖に似た感覚も残った。 まず作品の素材と技法が目についた。既知と未知が層になって絡み合っているような印象がどこからくるのか。 はじめにそれらを見て、切り抜いた布をほそい毛糸で絡みつかせるように刺繍しているのではないかと思ったが、和紙にエッチングの線だと聞いた。 自分の感覚のはずれ方がふしぎで記憶に残った。 懐かしさのような感覚がどこからわいてくるのか。 それらは、紙の色合いや、手触りや、かたちの縁に出てくる毛羽立った繊維のニュアンスからなのだと思った。 和紙にエッチングの線を刻印して、かたちを切り抜くという手法へ辿りついたのは、どうしても版画や絵画では語れなかったからに違いない。
種子や蕾といった極小の単体のモチーフを数十倍に拡大して、かたちの輪郭に切り取って、それらを直接壁に連ねたり、重ねたりして展示するスタイルは、壁全体をキャンバスと見立てれば、絵画的な要素をもっているとも言えるが、絵画と壁画と、タペストリーのはざまにふわりと降り立ったという印象であった。

会場写真

杉山の学んだのは、グラフィックデザインであり、後年あらためてロンドンでイラストレーションを学んで いる。 展覧会直前、ウイリアム・モリスに大きな影響を受けてきたという作家のことばを聞いて、私の感じた懐かしさと未知なるものがいりまじった感覚がどこからきているのか腑におちた。 杉山が受け継いだウイリアム・モリスの遺伝子を私たちも強く感じたからなのだ。 遺伝子は一世紀をこえて種になって、花びらになって画廊にふりそそいでいるのだ。
そしてまた、杉山にとって和紙とは植物であった。和紙とは繊維の綿のようなふわふわであった。 和紙とは、花粉や細胞までを溶かして、封じこめることができる素材であった。 そして、エッチングという技法。いつもエッチングの線の不思議さを思うのは、あの線からは音が聞こえてくる。 エッチングの線はレコードの溝のようで、ためいきやささやきの音を伝えてくる。 樹木に聴診器をあてると幹が水を吸い上げる音が聞こえるというが、エッチングの線を見ていると、声のような息づかいが聞こえる。
日本的な和紙と西洋的なエッチングの線という組み合わせの作品は、ウイリアム・モリスの遺伝子に よるものだった。 植物を解体して再構成する杉山は、花びらや実の重なりに時代の空気をすべりこませたいのだ。 植物をモチーフにしながら、空気や不安、水や逸楽やまでをもしのびこませていく。 かたちを繰り返すこと、連ねて蔓科の植物のように伸ばしていくこと、降り積もるように幾重にも重ねあわせることによって、鮮と腐という時間もそこにあらわす。
杉山の種や花びらやがくが画廊にざわざわとのびてくる。ふくらんでくる。ふってくる。かれてある。



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