INAX GALLERY 2

1999年9月のINAXギャラリ−2 Art&News
三島美喜代 展 − クレイジー・ペーパー −

会期:1999年9月1日(水)〜9月28日(火)
休館日:日曜・祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。



みしまジック

入澤ユカ(INAX文化推進部チーフディレクター)

三島さんの作品が記憶に焼きついたのは、15年ほど前、新聞紙が束ねられた作品によってだ。新聞紙の束そのものだと思ったが陶だった。新聞や雑誌は三島さんの長い間のモチーフだが、近作の新聞紙の束を画廊の天井まで、古紙回収業者の倉庫のように積み上げた作品はポリエステル樹脂だ。
美術写真家のA氏が思わず「床抜けないか」と心配したというが、陶と見紛ったのだ。陶の作家とおもわれているが、素材は金属や樹脂のこともある。

三島さんの仕事をひとことでいえば、ありえない所に、ありえない大きさで、ありえない質感のものを出現させてきたことだ。あまりのことに、あっけらかんと見えてしまう過剰さ。新聞や雑誌がもつメディア性で論じられる批評や解釈などを吹き飛ばしてしまう、蕩尽の力とでも言ってみたくなる表現に魅了された。
印刷物をやきものにするというスタートから、印刷的刻印を他のあらゆるものにするという道筋には、自分が真っ先に驚きたい三島さんがいるのだと思う。
1990年のINAXギャラリーでの個展の際、美術評論家の中原佑介さんは展覧会名を「クレイ・クレイジー」とした。作家に対してクレイジーとは最大の褒め言葉だ。「あの人は凄いねぇ」と中原さんはいつもとちょっと違うニュアンスの語尾で言ったのを記憶している。

新作をうす暗闇ではじめて見て、いや、見る前に踏んづけていた。最初の一瞬でトリックにはまったと思った。
初夏土岐市のアトリエに出かけた日、時刻は午後の7時を過ぎていた。タクシーが着いた。路上に三島さんが待っている。アトリエの前は工事中だ。錆色の鉄板が道の片側を長く覆っている。工事中の道路にはよく鉄板が蓋のように使われる。しかしそれこそが画廊の壁と床に配置される作品だった。
アトリエには並べてみる空間がなく、致し方なく道路に並べていたのだが、鉄板以外には見えなかった。タクシーを降りる第一歩目で作品を踏んだ自分の失態におもわず「三島さんって引田天功みたい」と私がつぶやくと「なにそれ」と問われ「女性の世界的マジシャン」というと「うれしいなぁ」と答えてくださった。

今回のモチーフは、昨年夏招かれたハンガリーからの旅の帰途でドイツの空港で手にした美術の新聞をモチーフにした。ジャン・ティンゲリー、アンディ・ウォーホール、ジョセフ・コスースなど、三島さんがいずれも心を奪われた作家たちの記事らしい。ドイツ語は全く読めないといいながらその新聞に強く惹きつけられた。
一面をまるごと、写真や図版、記事もすべて16倍に拡大した作品だ。全体はA3という紙サイズに分割され、再構成される。発泡スチロールで文字や図版をつくる特大モノタイプ新聞か。いや空間の床・壁を覆う新聞だから「空聞」とでも呼ぼうか。マリリン・モンローの顔もドイツの新聞から飛び出て、土岐市の道端に横たわっていた。
16倍の拡大は、現代の製版技術をもってすれば簡単なことだが、費用はびっくりするほど高いし、外注は本意ではなく、すべて手作業。書体が違う文字の一つ一つまでを何万語も切り取ってきた。妹さんが手伝ってくれたという。
紅殻などで染めた紙に、文字や図形を貼り鉄粉の錆色を乗せる。朽ちて破れたところもある鉄粉新聞。三島さんのアナーキーさを楽しんでいると、声をひそめて細部について語ってくれる。「あの鉄粉は使い捨てカイロの中味、L社のがいいの。他のは使えないの、きらきらして。という。作品を語る三島さんはまるで種明かしをするマジシャンのようだ。
三島さんの営みは、芸術や美術ということばで語ると、裃をつけているようでしっくりしない。
会うたびに「おもいっきり、バカげたことをやってみたい」とおっしゃる。「おもいっきり、バカげたこと」ってなんと魅力的なことだろう。




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1999年の展覧会



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